「老後はのんびり暮らしたい」かつてはそんなささやかな夢を抱いていた70歳の独居老人Aさん。 しかし、現実は厳しく……。本記事では、Aさんの事例とともに、CFPの伊藤貴徳氏が「老後の貧困」の現状と現役時代のうちに行っておくべき対策について解説します。
“手取り月10万円”70歳・ビル清掃の独居老人…安らぎゼロの老後生活に悲鳴「残ったのは住宅ローンだけ」【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

元自営業経営・いまは清掃アルバイト…働くシニアの「過酷な現実」

Aさんは今年で70歳。かつては自営業で飲食店を経営していましたが、体力的な問題もあり数年前に廃業。現在は、ビルの清掃員のアルバイトで年金と合わせた手取り月10万円で生計を立てています。結婚はしておらず、都心から少々離れた関東近郊のマンションに1人で暮らしており、20年以上前に購入したそのマンションは住宅ローン完済まであと数年残っています。

 

筆者のFP事務所に相談に訪れたAさんは「70歳を超えたら、仕事から離れてゆっくり過ごすのが夢だった。身体もあちこち痛むし、いつまで仕事を続けられるかわからない」とこぼします。 

 

なぜ、Aさんは働き続けなければならないのでしょうか。 

 

高齢者の貧困層は増加傾向 

厚生労働省の資料によると、2018年(平成30)年の「貧困線(等価可処分所得の中央値の半分)」は127万円。「相対的貧困率(貧困線に満たない世帯員の割合)」は15.4%となっています。つまり、所得が127万円以下の人を貧困層とした場合、国民のおよそ「6人に1人」が貧困層ということです。 

※ 厚生労働省「2019年国民生活基礎調査の概況」より

 

なかでも、高齢者の貧困層の比率は高く、「4〜5人に1人」が貧困であるといわれています。高齢化が進むにつれて、さらにこの比率は上昇していく見込みです。 

 

国民年金だけでは生活は難しい…老後も「働くしかない」

Aさんは現在70歳のため年金を受給しています。年金はいくら受け取っているのでしょうか。

 

年金制度は現在、20〜60歳の国民や自営業の方が加入する「国民年金」と、会社員や公務員等とその配偶者が加入する「厚生年金」という“2階建て”の構造になっています。厚生年金に加入している方は1階部分(国民年金)と2階部分(厚生年金)両方の年金を受け取ることができますが、そうでない方は1階部分しか受け取ることができません。

 

たとえば、Aさんのように自営業の方の場合、国民年金保険料を満額納めたときの年金受給額78万900円×改定率=79万5,000円となり、 月額に直すとひと月あたり6万6,250円です。

※ 令和5年度の場合

 

ちなみに、一般的な厚生年金加入者の年金受給額は月額14万6,000円ですから、受け取れる年金額には約2倍の差があります。 

 

Aさんも満額の国民年金を受給していますが、7万円弱の年金だけでは生活できず、アルバイトを始める前は貯蓄を取り崩しながら暮らしていました。しかし、住宅ローンの返済や、近年の物価高の影響などによってこれまで蓄えた貯蓄のみでは生活が厳しくなり、「働く」という選択肢をとって支出を補うことにしたのです。 

 

なお、ご自身の年金額がいくらになるかわからないという人は、1度毎年誕生月に郵送される「ねんきん定期便」を確認してみましょう。ねんきん定期便には、これまでの保険料納付額や、加入実績に応じた将来の年金受取見込み額が記載されています。