苦労を共にした30代夫婦、マイホームをやっとの思いで購入も…
ここである家庭の例をみていきます。
事例
夫Tさん 33歳年収700万円
妻Eさん 33歳年収500万円
3年前に住宅を購入(在来工法)
借入 7,500万円・35年ローン
金利 0.5%(変動金利)
TさんとEさんの夫婦は3年前に住宅を購入しました。ご夫婦の出会いは大学時代です。私立大学の理系学部でした。2人とも学費と生活費のために高額な奨学金を借りていました。幸い、就職が上手くいったことと、卒業後すぐに結婚したこともあり、励まし合いながらわずか10年弱で繰り上げ返済によって完済することができました。
それまでのあいだは古い賃貸アパートに住み、出産も控え、節約してお金を貯め続けてきたのです。奨学金完済を記念して、2人は念願の新築住宅を購入することにしました。
貯蓄はほぼ0円ですが、住宅メーカーの営業マンが「2人の年収と勤務先であればフルローンで問題がない」と言ったことに気をよくし、購入を決断。それまで狭いアパートで暮らしてきた反動か、購入したのは延床面積約60坪の、展示場と見紛うばかりの大きな家でした。60坪とはいえ大手メーカーではないため資金計画は思いのほか想定内。これから子供を2人以上は欲しいし、子供達には快適な住まいを提供してあげたいというのが妻Eさんの要望でした。
大きな家なので当然屋根と外壁の面積は広大です。太陽光発電システムと蓄電池を搭載し、床暖房も設置、オール電化でエアコンは全部で5台あります。夫婦それぞれの分の書斎を設け、自宅でも仕事ができるようにしました。
すべてが理想どおりの間取りでしたが、問題は土地の予算です。建物が大きすぎるあまりに土地に向けられる予算が少なくなってしまったのです。土地は郊外にせざるを得ませんでした。駅から徒歩30分と立地はよくありません。Tさん夫婦はこれから子供が欲しいと思っていることと、奨学金と同じように住宅ローンも繰上げ返済で早く終わらせたいということを希望していたため、弊社に相談を依頼していただきました。
世帯年収が1,200万円あり、奨学金を完済したことでご夫婦は自信に満ちています。7,500万円の借り入れがあるとはいえ、これから昇給もあるし退職金もある、大丈夫だろうと思っていたのですが……。
このままでは65歳時の貯蓄が「200万円」!?
これからの家計をシミュレーションしていくと、どうも65歳時の貯蓄は200万円程度しかないということがわかりました。
「え……なぜ?」と妻Eさんは驚きます。これから生まれる子供2人を私立大学の薬学部に進学させたいという妻Eさんの希望を入れ込んでいるだけではありません。
その原因は、建物の維持費の問題です。10年ごとにかかる屋根・外壁の塗り替え費用、太陽光発電システムのパワーコンディショナー交換、蓄電池の交換、給湯器の交換、エアコンの交換、防蟻処理など大きな費用がかかってしまいます。
「それって建物や設備の保証がありますよね?」と夫Tさんが言いますが、それらの費用は消耗品の交換なので保証では賄えません。さらには太陽光パネルの交換や、火災保険の掛け金、固定資産税も必要です。ここで重要なのは、その建物が何年の寿命なのか?という点です。
「一生ではないのですか?」と妻Eさんは言いますが……。
建物が何年後にどのように劣化してしまうのかは、温暖化が進む日本でははっきりと断言できません。住宅メーカーの設計思想とTさん夫婦がいかにメンテナンスにお金をかけていくか、それ次第ともいえます。場合によっては大規模なリフォーム、もしくは建て替えが必要になる可能性もあります。火災保険も築年数が古くなるほど高くなっていきます。
そして、もし変動金利が今後上昇しはじめたらどうなるでしょうか。現在の0.5%の金利が10年後に1%、15年後に1.3%と上昇したら確実に家計を圧迫します。元金が7,500万円であるため、わずかな金利の上昇でも家計におよぼす影響は無視できません。これから生まれる子供達の教育費の額と、その時期的なタイミングを考えると、家計に一息つく場面が老後まで一切ないことがわかりました。
「子供は1人だけかもしれないね……子供部屋が3つもあるのに」
「子供は奨学金を借りるのかもしれないね……」
「これからまた節約の生活なんだね……」
と、どんどん暗くなってしまうTさん夫婦でした……。現在は資産運用に力を入れたり、家計を見直したりすることでリスク回避をしようと計画を練り直しています。