「一生に一度の買い物」である住宅購入。しかし、せっかく購入した住宅に一生住み続けられるとは限りません。一体なぜなのでしょうか? 奨学金返済の苦労を2人で乗り越え、念願のマイホームを購入した30代夫婦の事例とともに、一生住み続けられる住宅選びのポイントについて長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
「世帯年収1,200万円・30代夫婦」奨学金完済で念願のマイホーム購入も…待ち受けるは「65歳で貯蓄額200万円」の悲劇【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

住宅を「一生所有できる」とは限らない現実

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

住宅を購入するとき、「一生に一度の買い物だから」と考えている人は少なくありません。確かに一生に二度三度と住宅を購入する人は、ごく限られた裕福な人に限られます。 しかし一生に一度の買い物だからといって、その住宅が「一生所有できる」とは限らないという現実を考えたことはあるでしょうか。

 

国土交通省が作成した『我が国の住宅ストックをめぐる状況について(補足資料)』に、「滅失住宅の平均築後年数の国際比較」というデータが掲載されています。これは滅失登記、つまり解体された家屋が築後何年経過していたかというデータの国際比較です。

 

出典:国土交通省 『我が国の住宅ストックをめぐる状況について(補足資料)』
[図表1]滅失住宅の平均築後年数の国際比較 出典:国土交通省 『我が国の住宅ストックをめぐる状況について(補足資料)』

 

これによると、日本の住宅は2008年~2013年の期間では、平均32.1年で解体されています。一方でアメリカは2003年~2009年の期間で平均66.6年、イギリスでは2001年~2007年の期間で平均80.6年となっています。いかに日本の住宅の寿命が短いかわかります。

 

もちろんこの32.1年というデータには注意点もあります。日本の住宅が32.1年で劣化し倒壊するとは限りません。住宅としてまだ使えるけれど、なんらかの事情(住環境の変化など)で解体した建物も含まれています。一方で、もう廃屋と化しても解体されず放置されている空き家は含まれていません。それでも滅失登記された住宅建物の築年数が32.1年だったのは動かしがたい現実です。日本の住宅は想像以上に早く解体されているのです。

 

新築の住宅を購入するとき、忘れてはいけないのは「耐久性と寿命」という側面での「性能」です。昨今は高性能住宅が増え、気密断熱性能や耐震性能が著しく向上しています。それによって理論上は建物の寿命が延びているといえるのですが、忘れがちなポイントがあります。それは、「メンテナンスに費用をかけなければ、あっけなく建物は朽ちる」という事実です。

 

たとえば外壁のメンテナンス(塗装やコーキング打ち替え)を怠ることで浸水し、最終的には木材を腐食させる原因になります。そうするとシロアリの被害を受けたり、耐震性能が低下したりします。結果的に住宅ローンを完済する前に解体を余儀なくされるという悲惨な事態になりかねません。

 

ファイナンシャルプランナーとして多くの住宅購入者からお話を聞いていると、建物のメンテナンス費用の予算がまったく考慮されていないか、過小に想定されているケースが非常に多いことに驚きます。それにもかかわらず、建物の寿命は「一生」を前提にしているのです。

 

購入予定者にとって関心があるのは値段(イニシャルコスト)と気密断熱性能の「スペック」ばかり。その性能を維持するための費用(ランニングコスト)は無視か無知の状態です。住宅ローンの変動金利が少し上昇するだけで家計が圧迫される家庭は少なくありません。

 

そんな現時点でもギリギリの家計では屋根と外壁のメンテナンスが後回しにされてしまい、簡単に建物の劣化を早めてしまいます。加えて変動金利の上昇や物価の上昇、教育費の負担などがあればあっけなく家計破綻へと向かいます。加えて建物が解体されることになれば老後の生活は絶望的に貧しくなるでしょう。