「住宅取得等資金に係る贈与税非課税措置」により、住宅資金の贈与が非課税の対象になりました。これから住宅の購入を予定している人のなかには、この制度の利用を検討している人も少なくないのではないでしょうか。しかし、制度の使い方を間違えると課税対象になってしまうことも……。本記事では、住宅資金の贈与を受けたYさん夫婦の事例とともに、制度利用の際に注意すべきポイントについて長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
世帯年収740万円の30代夫婦…非課税枠内で「親からの住宅資金贈与」にニヤリも、まさかの“課税対象”に「時間を戻したい」【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

現役世代への資産移転が目的…「住宅取得等資金に係る贈与税非課税措置」とは?

「高齢者はお金を持っている」

 

――先行きが見えない日本経済のなかで、高齢者だけが潤沢な金融資産を持っているというイメージがある人もいるかと思います。

 

実際のところはどうでしょうか。厚生労働省の『令和元年国民生活基礎調査』によると、全体の貯蓄額の70.3%を60歳以上の世帯が占めていることがわかります。さらにその7割以上が普通預貯金と定期預貯金が占めています。高齢者が金融資産を多く保有するのは、就労した年数や退職金、現役時代の金利情勢を考慮すると当然のことですが、内訳が普通預貯金と定期預貯金に偏っているため「資本の生産性」が著しく低いのが現状です。

 

少子化で労働力が減っていく日本社会のなかで、いくら家計にお金が眠っていても経済が上向くことにはなりません。そのため政府は高齢世代から現役世代へ資産の移転が行われるよう、税の優遇をしています。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

代表的なところでは「住宅取得等資金に係る贈与税非課税措置」です。これは直系尊属(父母や祖父母)から子供・孫世代に対し、住宅を買うための資金に使うのであれば贈与税は非課税にするという制度です。

 

令和5年度は省エネ住宅を購入した場合1,000万円まで、そのほかの住宅の場合は500万円まで贈与税が非課税になります。現役世代にとっては、住宅ローンの金利が安くても建物価格が高騰している現在、この贈与税の非課税制度はとても助かるでしょう。

 

「国税庁令和二年度統計年報」によると、令和2年度は60,142人がこの制度を利用し、全体で約7,000億円が贈与され住宅購入に利用されました。これから住宅の購入を予定している人のなかには、この制度を使用したい人が多いと思います。しかし、この制度の注意点があるのです。事例を交えて説明していきます。

親からの贈与2,000万円で住宅を購入、非課税枠内のはずが…制度活用の落とし穴

事例

夫Yさん 32歳 会社員 年収650万円

妻Kさん 32歳 パート社員 年収90万円

Yさんの父親からの贈与 1,000万円

Kさんの父親からの贈与 1,000万円

夫Yさんの貯蓄 300万円

資金計画 5,500万円

住宅ローン 3,000万円(夫Yさん名義)

建物の着工は翌年2月末、引き渡し予定は翌年7月

 

地方都市に住むYさん夫婦は念願の注文住宅を購入しようと計画しました。気密断熱性能に優れ、太陽光発電システムを取り入れた省エネ住宅です。建物の値段は3,500万円、土地は1,300万円、諸費用と外構工事費用などで700万円、資金計画は5,500万円という内訳です。

 

夫Yさんの父親が1,000万円、妻Kさんの父親が1,000万円、それぞれ贈与してくれることになりました。省エネ住宅を予定しているため、贈与税は贈与を受けた者ごとに1,000万円まで非課税となるとネットで知ったためです。夫Yさんが当初考えていた計画は次のようなものです。

 

・妻の父親からの贈与分1,000万円+夫の貯蓄300万円を合わせて土地を購入。

・土地の名義は妻にする。

・夫の父親からの贈与分1,000万円を自己資金として建物を注文。住宅ローン3,000万円と合わせて支払い、建物の名義は夫にする。

 

すでに2人の実家から夫婦それぞれの口座に1,000万円ずつ送金されています(半年前)。着工は翌年の2月、引き渡しは同年7月の予定です。

 

Yさん夫婦はこのとき、上手く制度を活用する準備ができたと得意げに笑っていました。

 

しかし、住宅メーカーの担当者がこのYさんの計画に疑問を持ったことでYさん夫婦に暗雲が立ち込めます。疑問を持った担当者がYさん夫婦を弊社に紹介したのです。結論からいうと、これでは親からの贈与について非課税は成り立ちません。さらは夫婦間で贈与税の課税もされてしまいます。なぜでしょうか。