住宅を買い、資産を減らしている日本人…
国土交通省の資料に興味深いデータがあります。『中古住宅市場活性化ラウンドテーブル 平成25年度報告書 附属資料』に、住宅資産額と住宅投資額累計の推移表が掲載されています。
これは住宅に対して投資された金額と住宅の資産額を長期で比較したものです。わかりやすくいうと、国民が住宅取得に費やしたお金の累計額と、現時点で住宅が持つ資産価値の総額の比較です。
これによると日本では2011年の段階で500兆円もの資産価値が消滅しているということになります。これが2015年になると700兆円に拡大したという計算まで存在します。一方でアメリカでは累計投資額を資産額が上回っています。住宅を購入しリフォームを繰り返すことで資産価値が上がり、投資額を超えていくという羨ましい状態です。
日本では中古住宅市場、リフォーム市場が未成熟であるということと、建物の寿命が極めて短命であることで、住宅を買うことが単なる消費になっていることがわかります。
大都市のマンションを除き、一般的な戸建て住宅を購入価格よりも高く売却するのはほぼ不可能でしょう。こまめなメンテナンスを繰り返しても資産価値は上がらないのに、メンテナンスを怠っていたら解体を待つだけの単なる「ボロ屋」になってしまいます。
中古住宅市場が成熟化していくかどうかは個人の力ではどうにもなりませんが、個人の家計という単位では、資産価値が消滅することは食い止めることができます。それは住宅を売買する意味での「資産価値」ではなく、「住まいとしての資産価値」を守るという意味です。
せっかく若いときに住宅を購入しても、定年退職と同時に建物が使えなくなったら老後は貧困に陥ります。退職金や貯蓄で建て替えができる人はごく限られています。解体するお金すら捻出できず、子供世代に負の遺産を相続してしまうこともあるでしょう。
昨今の住宅は地盤改良工事をして鋼管を打つなどしています。この撤去費用も安くはなく、残された子供世代もお金の問題で解体できないということになりかねません。
大切なのは、自宅の建物が最低でも自分の一生まで維持されていること、そして健康で快適な状態で生活できることです。そのために住宅を購入するときに意識しておくポイントは以下のとおりです。
メンテナンス費用を払っていける予算で家を買う
40年後までのメンテナンス費用(修繕や設備の交換)は、住宅メーカーで算出することが可能です。将来的に物価が高くなり変動することはありますが、現時点での費用をすべて一覧にしてもらうよう依頼してください。
この費用をファイナンシャルプランナーに見せて、将来の家計を計算してもらいます。メンテナンス費用を含めて家計が成り立つかどうかで、住宅購入の予算を判断することが重要です。いくら性能が高い建物でも、設備の交換費用が払えなくなるようでは意味がありません。
建物の寿命を冷静に考えてみる
たとえばローコスト住宅や極端に安い分譲住宅がいくらメンテナンスを繰り返しても100年持つとは考えにくいでしょう。しかし、住宅メーカーに寿命を訊いても正直なところわからないというのが現実かと思います。
現代の建物の性能では寿命は80年くらいという説もありますが、すべてに当てはまるわけではありません。現在30歳だとすると、90歳までに60年もあります。60年維持できる建物を選ぶとすると、イニシャルコストの安さだけを追求してはいけないということになります。
老後に暮らしやすい間取りにする
身体が不自由になってから急な階段を登るのは難しくなります。2階に寝室があると大変な不便を強いられることになります。もし就寝中に体調が悪くなり救急車を呼んだとしても、狭小すぎる家では救急隊が搬出するのに時間がかかってしまい危険です。
また玄関や浴室にも手すりが必要になると、将来はその分空間が狭くなってしまいます。 老後に暮らしにくい間取りであることが解体の原因にもなっているため、間取りの熟考はお金の面でも非常に重要です。
住み継ぐことができる家に
長寿命の建物であれば、親が亡き後、子供世代が住み継ぐことが可能になります。そうすることで子供世代は住宅ローンを借りて住宅を購入する必要がないので、その分、教育費や投資にお金を費やすことができ豊かに暮らすことも出来るでしょう。
古民家再生が一部でブームとなっていますが、古民家のように100年以上の耐久性がありメンテナンスだけで住み続けられるのであれば、子供世代、孫世代の家計には相当なゆとりが生まれます。こういう意味での「家の資産価値」は子供・孫世代を豊かにすることができます。
購入するときの安さ比較だけで判断してしまうと、資産を減らす買い物になってしまいます。また、維持できないような高額な設備が多すぎると新築のときは快適でもいずれ困窮します。メンテナンス費用や金利の上昇を見込んでいない予算で家を買うと、最悪の事態では家を手放すことになりかねません。住まいとしての資産価値という視点が住宅購入には大切です。
長岡 理知
長岡FP事務所
代表