10年で1.5倍増…「公務員のメンタル不調」の現実
総務省が令和3年12月に発表した「地方公務員のメンタルヘルス不調による休務者及び対策の状況」によりますと、令和2年度のメンタル不調による休務者※は21,676人となっています。
※「休務者」とは、原則として1週間以上、病気休暇または休職をした者が対象
回答した都道府県・市町村の87.4%でメンタル不調による休務者が出ており、休務者の年代は、40代の職員が最も多いのですが、すべての年代で2割を超えていて、見過ごせない問題となっていることがわかります。
30代:24.5%
40代:27.4%
50代:24.3%
なお、休職に至った理由ですが、「職場の対人関係(上司・同僚・部下)」が60.7%と一番多く、次いで「業務内容(困難事業)」の42.8%となっています。やはり、異動による人間関係の変化や業務の多様化・複雑化も影響しているように思えます。
さらに、一般財団法人地方公務員安全推進協会の「地方公務員健康状況等の現況 (令和3年)」によると、「精神及び行動の障害」による長期病休者数は右肩上がりで増え続けており、令和2年度では10年前の約1.5倍、15年前の約2.1倍まで増加しているのがわかります。
コロナ禍や自然災害による「業務負担増」も大きく影響
近年で大きな負担になったのは、新型コロナによる前例にない業務の追加でしょう。業務が増えたことはもちろん、住民からのクレームも増えたり、窓口での感染不安も大きなストレスとなったりしました。さらに自然災害(豪雨・台風・大雪・地震など)も昔に比べて増えてきています。災害時でも公務員は業務に当たらないといけないのはもちろん、災害の後には復旧業務にも追われる場合もあります。
地方公務員数は、平成6年から令和3年4月1日までに48万人減少しています。人手は減っているのにも関わらず業務は増えており、こういった面もメンタル不調の原因と考えられます。
なお、今回の公務員定年延長により、2023年(令和5年)から定年年齢は2年毎に1歳引き上げられていくことになります。給与は7割まで抑えられてしまいますが、長く働き続けることはマネープラン上にはメリットがあります。ですが、若い人の採用が抑制されてしまうことに繋がり、60代の職員が増え20代の職員が減ることにもなります。60代に入ると体力も落ちてきますから、その分、若手職員の負担が増えていくことも考えられます。
定年延長で60歳以上の就業継続を促進するためには、多様な働き方を模索し、メンタル面でも無理のない工夫がさらに求められてきます。今後はこれまで以上にメンタル不調への対策を講じる必要があるのです。
「公務員、辞めたい」と思ったら
転職や独立を考える公務員も増えていると聞きます。ですが、民間は利益を追求するのが目的ですから、企業側で受け入れを渋るケースも少なくなく、公務員から希望する民間企業への転職は容易ではありません。
筆者も約10年間の国家公務員生活のなかで、異動による毎年の人間関係の変化を経験してきました。筆者の場合は在職中にどうしてもシステム開発の仕事がしたくなって行政事務から民間のシステムエンジニアへと転職しましたが、やりたい仕事を見つけて転職される方はそう多くはありません。
ただ「いまの仕事がムリだから」という理由ですぐに仕事を辞めるのではなく、どうしても辞めたい場合は、仕事探しはもちろん、「スキルアップ・人脈づくり・資格取得・今後のライフプラン」などを在職中にしっかり準備しておく必要があります。公務員の方で転職・独立をお考えの方は、ひとりで抱え込まずまずはご相談することをお勧めします。
Aさんには状況をよくお聞きして、まずは「相談」と「休むこと」をおすすめしました。公務員については、ほとんどの勤務先でメンタル不調の相談窓口を設置したり、ストレスチェックを実施したりしています。自分自身のためですから、こういった提供を恥ずかしがらずに活用していただきたいと思います。
一旦お休みしてリフレッシュしても定年延長がストレスであれば、住宅ローンなどについても考慮してマネープランを再度見直し、60歳で辞めても問題ないかどうかを確認しましょうと、Aさんにはお伝えしました。1番大事なのは、笑顔で暮らしつづけることです。
川淵 ゆかり
川淵ゆかり事務所
代表