2025年、団塊世代が後期高齢者となり、超高齢社会が本格化する日本。高齢者の就労はますます重要な課題となるなか、定年退職後の生活設計の甘さや、再就職の難しさが浮き彫りになっています。物価上昇が続く現代において、老後資金は本当に足りるのでしょうか? 本記事では、Aさんの事例とともに高齢者が直面する課題について、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。
高収入を理由に家で威張り散らかしていたが…年金月31万円見込み、定年退職後に58歳妻と立場逆転「64歳・元大企業総務部長」の末路【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

毎日ブラブラ過ごす、元大手企業総務部長・現無職の夫

64歳のAさんは、現在無職。郊外に住宅ローンを完済した一戸建てに58歳の看護師の妻と二人暮らしをしています。大手企業の総務部長として勤務していましたが、60歳で達成感に溢れ定年退職したあとは、老後を楽しもうと再雇用は断り、毎日ブラブラする日々です。来年からは企業年金などもあわせて月31万円程度の年金を受け取る見込み。

 

本当は、もっと旅行やゴルフを楽しむ老後をイメージしていたのですが、退職後すぐに新型コロナでの自粛があったり、近年は物価上昇が続いたりでお金を使いにくくなっています。

 

29歳の一人息子はAさんたちと別居し、料理人として都内の小さなお店に勤務しており、将来独立を目指して頑張っています。小さいころから優秀な息子さんだったので、自分と同じように大企業に勤めてくれると期待して教育熱心だったAさんでしたが、「やりたい仕事をしたい!」と出て行った息子さんとはいまも絶縁状態です。

 

Aさんは15年ほど前に看護師として仕事復帰した妻にもいい顔は見せません。もともと、自分が高収入であることの驕りから、妻には高圧的な態度をとってきました。妻がどんなに疲れて帰ってきても家事を手伝おうともせずに、定年退職後も一日を持て余すような生活を送っていました。最近は元気に働きに出る妻の顔を見るだけでイライラし、些細なことでケンカするようにもなってしまいました。

 

ある日、いままで文句もいわず黙っていた妻がとうとうAさんに意見しました。

 

「家事ひとつもしないで毎日ゴロゴロして、なにを考えているの? 近所のBさんやあなたのお友達のCさんだって働いているじゃないの。最近は物価も上がっているし、私は可愛い息子が1日も早くお店を持てるようにと頑張っているのよ。いまは貯金があっても将来のことを考えると我が家はそれほど余裕なんてありませんよ! あなたがいつまでもそういう態度なら私は息子と暮らしますからね!」最後のほうは語気も強くなっていきます。

 

普段なにもいわない妻の迫力に圧倒され、これにはAさんも思わず「働けばいいんだろ! 働いてやるよ!」と叫んでしまいました。