「住宅取得等資金に係る贈与税非課税措置」により、住宅資金の贈与が非課税の対象になりました。これから住宅の購入を予定している人のなかには、この制度の利用を検討している人も少なくないのではないでしょうか。しかし、制度の使い方を間違えると課税対象になってしまうことも……。本記事では、住宅資金の贈与を受けたYさん夫婦の事例とともに、制度利用の際に注意すべきポイントについて長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
世帯年収740万円の30代夫婦…非課税枠内で「親からの住宅資金贈与」にニヤリも、まさかの“課税対象”に「時間を戻したい」【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

Yさん夫婦の贈与に非課税が成立しなかったワケ

Yさん夫婦が知らなかったポイントは大きくわけて3つあります。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

1.住宅資金贈与の非課税が成立する条件

第1のポイントは、住宅資金贈与の非課税が成立する条件についてです。国税庁のホームページによると、非課税となる要件として次のような文言が書かれています(抜粋)。

 

(6)贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用の家屋の新築等をすること。

(注) 受贈者が「住宅用の家屋」を所有する(共有持分を有する場合も含まれます)ことにならない場合は、この特例の適用を受けることはできません。

 

つまり、贈与を受けた者が住宅用の家屋の持分を登記しなければ、非課税は適用にならないということです。妻Kさんが父親から贈与された1,000万円を使って土地を購入し、妻の名義にしたとしても、建物の名義は夫Kさんであるため、妻Kさんは「住宅用の家屋の新築等」をしていないとみなされます。よって、非課税にはなりえません。

 

2.持分の割合がおかしい

第2のポイントとして、持分の割合がおかしいという点が挙げられます。1,500万円の土地に対して夫も自己資金300万円を出しているため、土地の名義は夫婦の共有名義にしなければなりません。妻の単独名義にすると、300万円は夫から妻への贈与という扱いになり贈与税が課税されます。

 

3.贈与を実行するのが早すぎた

第3のポイントは、贈与のタイミングが早すぎたという点です。

 

住宅資金贈与の非課税が成立するのは、前述のとおり、「贈与を受けた年の翌年3月15日までに」建物が完成することが条件です。これは建物の引き渡しではなく、「屋根を有し、土地に定着した建造物として認められる状態」と国税庁が定義しています。つまり「上棟(屋根がつくこと)」が3月15日に終了していなければなりません。

 

しかしYさん邸の場合、着工が翌年2月末ということですから、3月15日に上棟しているとは考えにくいスケジュールです。そのため、親からの贈与は翌年1月1日以降にするべきでした。そうすることで上棟までに時間の余裕があるため安心です。しかし翌年もこの非課税制度が延長されるのかは未定であるため、今回契約を予定している住宅メーカーは諦め、完成に間に合うメーカーを探すべきでした。

 

贈与の実行タイミングを間違えてしまい、Yさん夫婦はこのままでは高額の贈与税を支払うことになります。では贈与分を一度親に返金して翌年にやり直すことは可能でしょうか。

 

贈与の取り消しができる条件を国税庁のホームページで見てもかなりのハードルの高さです。一度送金されているため贈与があったということになり、取り消しは困難かと思います。この部分は弁護士に相談するしかありません。あと戻りができない状況になっていたことを知ったYさん夫婦はポツリ。

 

「時間を戻したい」