本記事では、慶應義塾普通部、東京海洋大学、早稲田大学等で非常勤講師をしながら「海外教育」の研究を続ける、本柳とみ子氏の著書『日本人教師が見たオーストラリアの学校 コアラの国の教育レシピ』より一部を抜粋・再編集し、教育先進国である「オーストラリア」の教育現場について、日本と比較しながら紹介していきます。
「母をがんで亡くした女子高生」がオーストラリアの高校で勉強と週30時間におよぶ「看護助手のパートタイム」を両立した結果 (※写真はイメージです/PIXTA)

通常の学校で「馬や牛が何頭も飼育されている」ワケ

オーストラリアの学校は職業教育(Vocational Education and Training:VET)が盛んだ。専門高校はないが、通常のハイスクールで様々な職業教育を受けられる。

 

南オーストラリア州の小中一貫校で、農業の授業を見学したことがある。学校に広大な農場が併設され、馬や牛が何頭も飼育されていた。農業高校というわけではない。通常の州立学校だ。

 

農業の授業は職業教育の科目として行われるとともに、一般の科目としても設定され、農業に興味のある生徒は7年生から誰でも履修できる。通常の学校で幅広い専門教育が受けられるのは羨ましい。

社会で役立つ資格が取れる

職業教育では実社会で役立つ資格の取得も可能だ。

 

オーストラリアの資格はAQFで全国的に統一されており、ハイスクールで資格を取得したあとも、さらに訓練を続けレベルアップを図ることができる。

 

ビジネス、エンジニアリング、建設、自動車産業、観光、ホスピタリティー、福祉、ICT、メディア、医療、介護、農業、保健衛生幼児教育スポーツ、健康・フィットネスなど、分野は多岐にわたる。

 

野生動物保護や鉱山、配管などのコースがあるのもオーストラリアらしい。航空業界と提携し小型機の操縦免許が取れるプログラムもあるというからすごい。小型機の操縦は広大な農場には欠かせない。

 

いずれにしても、ハイスクールでこれだけの種類の学習ができるのは、国が職業教育に力を入れているからだろう。

介護の道を選んだイソベル

南オーストラリア州のホームページに、ハイスクールで職業教育を受けた生徒の体験記が掲載されていた。

 

イソベルという女子生徒の話だ。

 

彼女は8歳のときに母をがんで亡くした。その際に母が病院で受けた手厚い看護に心を動かされ、11年生のとき高齢者支援の職業教育の科目を履修した。

 

毎週金曜日には学校を離れ、看護助産専門学校で実践的な訓練を受け、高齢者施設での実習も行った。11年生の終わりにはAQFの資格を取得し、同時に、高齢者施設の看護助手としての仕事も得た。

 

臨時雇用で働き始めた彼女だったが、やがて週30時間の職務に就くことになる。在学中のことだ。

 

彼女にはハイスクールの単位がまだ残っていた。そのため、12年生のイソベルの生活はこの上なく忙しいものとなった。