本記事では、慶應義塾普通部、東京海洋大学、早稲田大学等で非常勤講師をしながら「海外教育」の研究を続ける、本柳とみ子氏の著書『日本人教師が見たオーストラリアの学校 コアラの国の教育レシピ』より一部を抜粋・再編集し、教育先進国である「オーストラリア」の教育現場について、日本と比較しながら紹介していきます。
「母をがんで亡くした女子高生」がオーストラリアの高校で勉強と週30時間におよぶ「看護助手のパートタイム」を両立した結果 (※写真はイメージです/PIXTA)

職業教育で進路を考える…調理の先生はプロのシェフ

9年生の家庭科の調理実習を参観した。

 

作っているのはオーストラリアで最もポピュラーなお菓子「アンザックビスケット」だ。

 

指導するのは三ツ星レストランで長年シェフをしていたピーター先生。英国やオーストラリアのレストランで働いたあと、キャリアを子どもたちのために活かしたいと一念発起して転職した。教師になって12年目だという。

 

本物のシェフから調理を学べるのは幸せなことだ。

 

オーストラリアでは、ピーター先生のように他業種からの転職で教師になる人が少なくない。社会経験を活かして、社会に直結する知識や技能を伝えることができると、近年は積極的に採用されている。

 

生徒たちは楽しそうに取り組んでいる。シェフのユニフォームを身に纏った先生は、調理室を忙しそうに歩き回り、生徒にアドバイスしている。不揃いのビスケットもあるが、それはそれで美味しいのだろう。

 

できあがったビスケットは、調理室の隣の試食室で、紅茶と一緒に味わった。あちこちに観葉植物が置かれ、テーブルには真っ白いクロスがかけられている。本物のレストランのようだ。

 

紅茶もティーポットもブランド品で、入れ方も本格的。できるだけ「本物(authentic)」に近づけてというのがピーター先生のやり方だ。

 

11年生と12年生のクラスはさらに本格的だ。ピーター先生の指導のもと「コースディナーの夕べ」と呼ばれるイベントを開催している。フルコースのメニューを調理し、保護者や先生をゲストとして招いて味わってもらう。

 

生徒たちはフォーマルなユニフォームを身に着け、レストランさながらの雰囲気で給仕にも挑戦する。ゲストは毎回100人近く集まるという。

 

地元で開催されるプロのシェフによる講習会に参加し、料理の技術、ワインの知識、接待のノウハウなどを学ぶこともある。さらに、各種の調理コンテストにも参加し、実践的知識と技能を習得する。調理実習も奥が深い。