投稿者の個人情報が特定され大バッシングを受けているにも関わらず、後を絶たない迷惑動画。ニッセイ基礎研究所の廣瀨涼氏が、なぜ次から次へと迷惑動画は投稿されるのか、考察していきます。
なぜ、炎上は繰り返されるのか…迷惑動画投稿がされてしまう構造を考える (写真はイメージです/PIXTA)

3―「悪ノリ」と「親密圏」

筆者はコミュニティにおける親密圏の存在が昨今の迷惑行為動画の投稿に繋がっていると考える。学生時代を思い出してほしい。休み時間に教室内で悪ふざけをしていたクラスメイトが、何人かいただろう。そこで行われたバカ騒ぎ、悪ふざけ、少々度を超えたいたずらは、他のクラスメイトが先生や大人に報告しない限り、公(問題)になるコトはなかった。構造としてはこれに近い。特に若者においては、現実社会におけるコミュニティは、SNS上でも繋がっている事が一般的であり、誰か知らない人と繋がるという側面のみならず、日常の延長、社会の地続きとして用いられることが普通である。

 

また、同じSNSでもアカウントを複数擁し、同じ学校の仲間でも、より仲がいい仲間と繋がるための専用のアカウントを使用するなど、コミュニケーション方法や投稿する内容を使い分けている。信頼や依存度が高く仲のいいグループほど、親密圏は狭くなり、その仲間内でしか盛り上がることができないようなトピックや本レポートで言う迷惑行為を含む悪ノリなども投稿されがちだ。これは、現実社会における内輪ネタ・内輪ノリの延長なのである。学校の休み時間に悪ふざけをしているノリが、下校後もSNS上で続いており、悪ノリや悪ふざけで行われる行為のレベルが非常識なモノや迷惑行為になっていくのである。そのため、不特定多数のために動画を投稿(撮影)しているのではなく、特定の見せたい誰かがいるケースの方が多いのではないだろうか。

 

また自身が、そのような非常識なことを内輪ネタにしているコミュニティに身を置いた場合は、誰もその非常識な行為を指摘することはないし、自身が選んだ仲間たちだけという親密圏の範囲を自ら決定できるからこそ、自分の仲間がチクるわけない、という信頼感がそのような動画として軽率に投稿される背景にあるのだろう。自分に限って炎上はしない、炎上は他人事であると考えている可能性も十分にあるのだ。

 

4―なぜコミュニティの外に内輪ネタが漏れていくのか

では、なぜ日常における内輪ネタの延長を気の置けない仲間にだけ共有しているのに、親密圏外(世間)に迷惑行為の投稿がリークされてしてしまうのだろうか。これは筆者の推測ではあるが、考えられる理由として、二つあげられる。

 

一つ目は、内輪ネタを他のコミュニティに顕示したいと思うメンバーがコミュニティの中にいる可能性だ。自分の友達にはこんなに面白いやつがいるんだぞ、とコミュニティ外の人に見せたいという欲求によって、投稿者の親密圏外の人にまでシェアされる事がある。その場合、その内輪ノリを不快に思った親密圏外の他人は、その人(投稿者)を擁護する必要がないため世間へ拡散し、その結果、その内輪ネタが問題視され炎上に繋がるのである。

 

二つ目は、コミュニティの中に、内輪ノリに対して不快感や疑問を抱き、その行為を問題視するために敢えてコミュニティの外に情報を拡散させようとする場合だ。笑いやエンターテインメント性を追求すればするほど内輪ノリはエスカレートする傾向があるが、エスカレートしていく過程で一線を越えて疑問や不快に思うこともあるだろう。

 

また、そもそも公開範囲を間違えて親密圏の仲間以外が見ることができる状態にしてしまうと、そのネタは内輪ネタとして扱われず、自動的に問題行為として拡散されていくことになる。特に、親密圏外の仲間が学校内や顔見知りならば、投稿を消したり根回しすることで対応できるかもしれないが、そもそもSNSは顔見知りよりも社会的な人となりを知らない人と繋がるケースの方が多いわけで、そのような投稿が顔見知り以外の人にリーチしてしまえば、その投稿は正義感や迷惑行為を告発することで得られる承認欲求を満たす対象へと変化してしまうのである。

 

昨今のように、なんでも動画で残したり、配信をしてしまう消費文化が定着しているからこそ、その場で完結させる予定だった悪ノリが勝手に友達に撮影され、それが投稿されたりシェアされてしまうケースもある。また、本人が当初迷惑行為をする気がなくとも、撮影する側が囃し立てれば囃し立てるほど動画内の悪ノリはエスカレートし、周りの雰囲気が迷惑行為を助長させることにもつながるのである。