結婚や子どもの誕生など、人生の大きな節目で考えるのが「マイホームの購入」。近年は晩婚化の影響で、マイホームを購入する年齢層も上がってきています。しかし、深く考えずに住宅ローンを組み購入にいたると「老後に苦難が待っている」と、FP Office株式会社の伊藤敦志FPはいいます。50歳Aさんの事例をもとに、詳しくみていきましょう。
手取り月49万円の50歳・会社員「全額ローンで自宅購入」順調に返済も“いつのまにか”老後資金なく…夫婦の油断が招いた悲劇【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「全額ローン」で家を買うとどうなる?

長年住宅ローンの低金利が続いていることもあり、金利が低いことを理由に「全額ローン」で住宅購入に踏み切る人も少なくない。足元で固定金利は上昇しているものの、依然として変動金利は低金利で推移している。住宅金融支援機構が行った「住宅ローン利用者の実態調査」(2022年10月調査)によると、住宅購入者の69.9%が変動金利を選択していることがわかる。

 

住宅を購入する理由はさまざまだが、結婚や子供の誕生、定年退職後の住まい、在宅勤務が増えたなど、なんらかのライフイベントがきっかけになっている人が多い。また、近年の晩婚化の影響もあり、最近では50代~60代でマイホームを購入する人も増えている。

 

住宅は「人生で一番大きな買い物」といわれる。購入する前に自身の収入や将来の見通しをしっかりと考え、ローンを組む際は「返済計画の実現性」を検証する必要があることはいうまでもない。

 

しかし実際には、事前の計画通りに進まない、進められない購入者が多いのも事実だ。今回は、50歳で住宅購入に踏み切ったAさんにスポットを当て、住宅購入で失敗しない方法を考えてみたい。

 

手取り49万円、4人家族…50歳でマイホーム購入を決意したAさん

現在50歳のAさんには妻と大学3年生の長女、高校3年生の長男がいる。Aさんの年収は800万円、手取り年収は588万円。月額に換算すると49万円の手取り額だ。また、貯蓄は1,000万円ほどある。

 

メーカー営業職で転勤が多いこともあり、これまでは住宅手当を受けながら賃貸に住み続けていた。家賃は15万円だが、住宅手当が5万円あり実質負担は10万円だった。

 

Aさんが住宅購入を検討しはじめたのは、50歳以降はAさん自身の転勤が少なくなることに加え、なによりも妻が定年後の住まいを気にしだしたことがきっかけだ。現在の勤務地は妻の実家に近く、周辺に家を買えば義父母(妻は一人娘)の介護を行うにも便がいいだろうと考えた。

 

当初、Aさんはそこまで乗り気ではなかったが、いろいろなマンションや一戸建てを内覧するうちに購入意欲が強くなっていった。どの物件にするか、家族間での調整も難航したが、最終的には物件価格4,580万円の一戸建てを家族全員が気に入り、住宅ローンを組んで購入することを決断した。金融機関の事前審査も無事に通過し、あとは本審査の申し込みと契約手続きをするのみだ

※ 金利は0.5%、返済中に変動はないものとする。またローン諸費用などは考慮しない。

 

定年前の返済は断念したが…「夢のマイホーム生活」が実現

ここでAさんが1番頭を悩ませたのが、「返済期間を何年にするか」という問題だった。Aさんが希望していたのは現役中(65歳の定年まで)に完済することだったが、この場合15年返済となり、毎月の返済額は26万4,158円にのぼる。手取り49万円の半分以上を返済に充てるのはさすがに抵抗があり、断念した。20年返済にしても返済額は月々20万573円となり、いまの家賃負担の倍となってしまう。

 

大きな買い物に不安を覚えたAさんは、自身でローン借入の適正額を調べることにした。スマホから得られた情報では、一般的に無理のない住宅ローン借入額は年収の5~7倍、返済負担率は20~25%とのこと。

 

25年返済にすれば月々の返済額は16万2,438円となり、いまの年収からみたローン負担率は約24%となる。老後に住宅ローンが返済していけるのか不安はあったが、「退職金で繰り上げ返済をすれば問題ない」と周囲から助言を受け、結果的に25年ローンでマイホームを買うことに決めた。

 

夢のマイホーム生活が始まると家族のコミュニケーションも増え、妻と子どもたちも大喜び。Aさんは心から「購入してよかった」と一安心だ。