50代でのマイホーム購入は「ハイリスク」
Aさんは50歳時点で、“当時の年収からみた”住宅ローン負担率と退職金による繰り上げ返済を頼りに購入に踏み切った。
しかし50歳での住宅購入は、30代での購入に比べ「リスクが高い」といわざるを得ない。収入を得られる期間が限定的なため、収支の前提が少しでも崩れれば資金計画は大きく狂うことになる。
年収が「ずっと一定である」という人は少なく、退職直前はAさんのように年収が下がる企業が多い。Aさんの年収推移をもとにシミュレーションしてみると、Aさんが購入を決めた4580万円の物件は正直無理がある。老後もキャッシュアウトせずに返済できるギリギリの価格は3,500万円であった。
勤め先に自身の年収見通しを確認できれば1番いいのだが、確認してもわからないのであれば、厳しめにみた年収推移から返済計画を立てることが望ましい。そして、返済が老後も継続される場合には、年金収入の見込みも把握しておくべきである。
返済計画が狂っても、働く期間を延長することで計画をリカバリーすることは可能だが、自身の健康など「いつまで働けるかわからない」というリスクがある。
「マイホーム」の選択肢は購入だけではない
Aさんは一軒家を購入したが、子どもたちの独立後、夫婦2人の生活では部屋を持て余すことだろう。“終の棲家”として持ち家も持つメリットは大きいが、賃貸には住み替えが容易という最大のメリットがある。夫婦2人になればさほど大きな家に住む必要もなく、家賃負担も抑えられる可能性が高い。
Aさんの場合は妻の実家が近くにあるため、将来的に義父母から譲り受けることも可能性としてはあったはずだ。当然リフォーム費用などはかかってくるが、一戸建て購入からすれば費用を抑えられる可能性は高い。
Aさんのように、50歳でマイホーム購入に踏み切る人は全体からみると少数であろう。決して50歳で住宅購入することを否定しているわけではないが、老後の生活に支障をきたしてはなんの意味もない。リスクが高いからこそ叩きすぎて石橋が壊れるくらいの慎重さが必要だ。
当たり前のことだが、「住宅資金」という項目だけで収支を考えるのではなく、生活にかかるすべての資金とのバランスが重要になる。
客観的な視点を持って返済計画や貯蓄計画をしっかりと立て、さらに計画実行を手助けしてくれるパートナーを見つけておくとより安心な住宅購入をすることができるだろう。
伊藤 敦志
FP Office株式会社
ファイナンシャルプランナー