出生数80万人割れとなりましたが、いまだに有効な少子化対策を見出すことができていません。今回、ニッセイ基礎研究所の天野馨南子がエリア女性の1人当たり出生力(出生率)が生み出す「赤ちゃん数維持力」に注目し少子化対策について解説していきます。
2021年/2000年 都道府県の「赤ちゃん数維持力」…圧倒的維持力の東京都・女性移動が生み出すエリア人口の未来 (写真はイメージです/PIXTA)

出生「数」をベンチマークとした地方少子化政策を

日本全体で考えるならば出生率で判断しても今のところ問題はないが*3、都道府県レベルでの比較をする場合は、女性人口の移動がエリアの出生数に与える影響が非常に大きくなっており、その結果、出生率の高低のみで政策の効果に過大に自信をもったり、逆に自信を失ったりしてはエリアの少子化政策の目標を完全に見失ってしまう。

 

そもそも少子化対策とは、そのエリアに生まれる赤ちゃんをできる限り減らさない、もしくは増やそうとする政策であることを再確認したい。そして、そのためには既婚女性にのみ「子育て支援」「妊活支援」を強いることが最優先ではないことも改めて確認する必要があるだろう。

 

日本における少子化は既婚女性1人当たりの出生数の減少が大きいために起こっているのではない。半世紀で4割水準にまで出生数が減っているが、その出生数を生み出すカップル数が出生数と同様に4割水準にまで減少していることが原因であり、出生率の計算対象となる女性数の減少の倍速でカップル数が減少しているのだ。

 

国家単位で言えばそれは「未婚化」というなんとも広義なイメージをもつ説明となるが、人口減少が顕著な地方の視点で言うと「地元から結婚対象となる若い独身女性が出て行ってしまったので、そのようなエリアでは未婚化(カップル数激減)するのは当たり前」という非常にわかりやすいファクターとなる。

 

地元エリアに住む女性が、就職期にエリア外に大規模に移動することにより発生している人口減少について、今一度「女性という存在のライフデザインを『結婚して子どもを産み、家事をして介護もする』人」という視点からのみ捉えて政策をたてていないか、改めて検証してほしい。特に女性流出エリアはそのエリアの有する女性像のアンコンシャス・バイアスと戦うことが、少子化対策の1丁目1番地といえるだろう。

 

*3:カナダのように人口の2割以上を移民人口が占めるような国の場合は、出生率は独身女性人口を大量に受け入れれば必然的に低下するので国家単位でも出生率は人口維持の最終ベンチマークとはならない。