「三大疾病保障付団体信用生命保険」の保障内容
Bさんは妻に当時の契約書類を持ってきてもらい、内容を確認しました。団体信用生命保険の「契約概要」には確かにこうありました。
そして急性心筋こうそくの支払い対象となる状態も記載されていました。
1.典型的な胸部痛の病歴
2.新たに生じた典型的な心電図のこうそく性変化
3.心筋細胞逸脱酵素の一時的上昇
医師に問い合わせてみると、Bさんは虚血性心疾患による急性心筋梗塞ではないということ。つまり銀行の担当者がいうとおり、Bさんの症状では住宅ローンが免除になることはありません。Bさんはショックを受けましたが、銀行も保険会社もなにも落ち度はありません。しかし住宅の専門家であるはずの自分が急性心筋梗塞とはなにかという理解がなかったことにさらに衝撃を受けてしまいました。
三大疾病保障付団体信用生命保険は、一般的に通常の住宅ローンの金利に0.2%を上乗せします。その0.2%はいわゆる「保険の掛け金」に相当する部分です。6,000万円の借入(金利0.6%)の場合、0.2%を上乗せすると約228万円の利息が掛け金に相当します。35年間を毎月に引き直すと5,428円の保険であるともいえます。
これだけの掛け金を払いながらも団体信用生命保険の適用がないのはガッカリするでしょう。今後も住宅ローンの返済は継続されることになります。しかも今後完治することがない心臓の病気と付き合いながら67歳まで返済を続けていくことになります。
意外と気づかれない…「三大疾病保障特約付団体信用生命保険」のデメリット
三大疾病保障付団体信用生命保険には意外なデメリットが存在します。保障内容の説明書である「契約概要」をひも解いてみると、保険金が支払われる条件としては次のようなものとされています。
(2)所定の高度障害状態
(3)悪性新生物
(4)急性心筋こうそく
(5)脳卒中
このうち注意が必要なのは、(4)と(5)です。心疾患のうち急性心筋梗塞の患者が占める割合はごく一部であり、厚生労働省の「平成29年患者調査」によると9.2%とされています。いい換えると90.8%の心疾患は団体信用生命保険の適用対象外ということになります。
脳卒中にも同じことがいえます。脳血管疾患のうち保険会社が定義する「脳卒中」とは、くも膜下出血、脳内出血、その他の非外傷性頭蓋内出血、脳梗塞を指します。そのほかの脳血管疾患は適用外です。
急性心筋梗塞以外の心疾患でも、その後の労働には制限が加わることが多いのが現状です。職種によってはこれまでどおりの業務に就けず、収入減や失業となることも考えられます。しかし三大疾病保障付団体信用生命保険ではすべての心疾患が対象ではありません。失業して心不全の闘病を続けていても、住宅ローンは免除されないのです。
この隠れたデメリットを明確に説明してくれる住宅営業マンは多くはないでしょう。繰り返しますが、銀行や保険会社が意図的に誤解を与えているわけではありません。しかし急性心筋梗塞しか適用されないということがなにを意味するのか、どんなリスクがあるのか、消費者が自分で理解するのは非常に困難です。
ほかにもデメリットが存在します。もし将来住宅ローンを借換えしたいと思ったときにも、予想外の事態が起こりかねません。そもそも団体信用生命保険は生命保険であるため、加入条件は「所定の健康状態であること」となります。つまり病歴がなく健康でないと加入できないのです。
若いころに住宅ローンを借りたときは健康だったので三大疾病保障付団体信用生命保険にも加入できたかもしれません。しかし住宅ローンを借り換えるときは、団体信用生命保険は解約され、新しく加入することになります。そのときに健康状態が悪ければもう加入はできません。
特に三大疾病保障付団体信用生命保険は加入できる健康状態の条件が厳しく、中高年世代では加入が難しいのが現状です。健康状態が悪いため、同条件の団体信用生命保険で住宅ローンの借換えができないという事態も考えられるのです。