住宅ローンを借りるときに加入する「団体信用生命保険」は、債務者が死亡すると銀行が保険会社から死亡保険金を受け取り、住宅ローンを完済するという仕組みです。最近では死亡時だけではなく、がんをはじめとする三大疾病時にまで補償を拡大させた商品も増えていますが、そこには知らない人も多いデメリットがあるといいます。本記事では、心不全を発症した42歳の営業マンの事例とともに、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が「三大疾病保障付団体信用生命保険」について解説します。
年収900万円・42歳営業マン、心不全を発症も…ローン免除されない「三大疾病保障付」団体信用生命保険の“真相”に悲鳴【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

42歳・コンサル営業職、心不全を発症…

Bさんはコンサルティング会社に勤務する42歳の営業マンです。全国の中小規模の工務店を顧客にしているため、勤務日の半分は全国出張があります。工務店の販売支援をするという仕事柄、取引先の社長や幹部社員からの接待も多く30代後半になってから体重が激増してしまいました。

 

スーツを着るとそうは見えませんが、標準体重から20kg以上も重く、健康診断での血液検査の数値もかなり悪いのが気がかりでした。Bさんはあまり細かいことを気にするタイプではなく、健康については気がかりなものの、取引先との飲食の場で、仕事の議論を交わすことが大好きだったのです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

 

しかしあるときから体調に明らかな変化が現れました。駅の階段を登るときに激しい息切れを感じるようになったのです。「おじさんになったからかな……運動不足だな」と思ってやり過ごしていたものの、次第に体調は悪化。手足が冷たく眠れない、深夜に咳で寝苦しい、毎日ひどい疲れが抜けない、お辞儀をするだけでも息が上がるなどの症状が現れました。

 

ある日、出張先から帰った夜に自宅で激しい動悸があり、翌日病院を受診。その結果、心不全であると診断されてしまい、そのまま入院することになりました。近くの大学病院で手術も必要であるとのこと。

 

Bさんは医師から当面のあいだ、全国の出張は控えるほうがいいといわれてしまい、ショックを受けてしまいました。営業マンである自分にとっては全国の工務店と面談してこその仕事であり、それができないとなるとこの仕事を続けることが難しいだろうと、不安に駆られます。おそらく会社を解雇されることはないけれど、営業職から内勤職に異動することになるかもしれません。営業職として歩合給があって年収900万円ですが、もし内勤となったら300万円程度、年収が下がるはずです。

 

見舞いに来た妻にそれを告げたところ、妻の第一声は「これから住宅ローンは払えるの?」でした。Bさんは「おいおい、まずは夫の体調を心配してくれよ」と思いましたが、専業主婦の妻としては偽らざる不安でしょう。

 

Bさんは10年前に6,000万円の住宅ローンを借りて注文住宅を購入しています。住宅に関して専門であったため、高気密高断熱で性能のいい家を建てたと満足しています。10年が経過した現在、住宅ローンの残債は約4,400万円。毎月の返済額は約16万円です。これから年収が下がるかもしれないのに、妻がこの返済額を不安に思うのは当たり前かもしれないとBさんは思いました。しかし住宅の専門家であるBさんはふと思い出し妻にいいました。

 

「たしか団体信用生命保険は三大疾病保障付にしていたはず。心臓病のときは住宅ローンの残債がゼロになるはずだよ」

 

団体信用生命保険とは、住宅ローンを借りるときに銀行で加入する生命保険のことです。債務者が死亡すると銀行が保険会社から死亡保険金を受け取り、住宅ローンを完済するという仕組みです。昨今はこの保障内容が「死亡時」だけではなく、がんをはじめとする「三大疾病時」にまで拡大させた商品も増えています。

 

Bさんが加入したのも「三大疾病保障特約付団体信用生命保険」でした。これで心臓病の自分の住宅ローンは完済されるはず……と思い、病室から銀行に電話をして確認をしたところ、銀行の担当者は予想外のことを告げました。

 

「三大疾病は、がん・脳卒中・急性心筋梗塞の場合に適用されるため、Bさんの症状では対象外となる可能性があります」

 

Bさんは驚いてしまいました。

 

「このまま住宅ローンが残るということ……?」