ニッセイ基礎研究所の久我尚子氏が大学卒女性の生涯賃金に注目して推計。働き方によって、どのような違いがあるかみていきましょう。
大学卒女性の働き方別生涯賃金の推計…正社員で2人出産・育休・時短で2億円超、男性並水準で3億円超 (写真はイメージです/PIXTA)

2―近年の女性の就労状況…「女性の活躍」推進効果で非正規雇用率低下、出産後の就業継続率上昇

1.雇用形態の状況…「女性の活躍」推進効果で若いほど非正規雇用率低下、高年齢層の就業も活発化

まず、生涯賃金推計の前提として、近年の女性の就労状況の変化について見ていきたい。

 

これまで「М字カーブ問題」で指摘されてきたように、日本では出産や育児を理由に一旦離職し、パートなどの非正規雇用で再就職する女性が多かったために、年齢とともに非正規雇用者の割合が高まり、女性雇用者全体では非正規雇用者が過半数を占める(図表5)。35~44歳までは正規雇用者が非正規雇用者を上回るが、45~54歳では逆転し、非正規雇用者率が半数を超えて上昇していく。

 

推移を見ると、2013年頃から54歳以下では若いほど非正規雇用者率が低下しており、2012年と比べて2022年では、15~24歳(在学中除く)や25~34歳で約1割低下している(図表6)。逆に、65歳以上では非正規雇用者の割合が約1割上昇しているが、これは正規雇用者数は大きくは変わらない一方で(2012年32万人→2022年41万人)、非正規雇用者数が大幅に増えたためである(同80万人→同199万人)。つまり、「女性の活躍」が掲げられて以降、若い年代を中心に正規雇用で働く女性が増え、高年齢層の就業も活発化している。

 

【図表5】【図表6】
【図表5】【図表6】

 

2.結婚・出産前後の就業継続状況…就業継続率は上昇傾向、第1子出産後は69.5%、正規は83.4%

前節で見た、М字カーブの凹みが解消傾向にある背景には、結婚や出産前後の妻の就業継続率が上昇していることがある(図表7)。子の出生年が2010~2014年と2015~2019年を比べると、第1子出産前後の妻の就業率は57.7%から69.5%(+11.8%pt)へ、育休を利用して就業継続した割合は43.0%から55.1%(+12.1%pt)へと上昇している。

 

【図表7】
【図表7】

 

なお、就業継続者の中で育休を利用した割合は74.5%から79.3%(+4.8%pt)へと上昇している。また、就業継続率は第1子出産前後と比べて第2子出産前後(2015~2019年では87.1%で第1子出産前後の就業継続率より+17.6%pt)や第3子出産前後(同89.5%、同+20.0%pt)では大幅に高くなっている。つまり、女性の就業継続の大きな壁は第1子出産前後にある様子が見て取れる。

 

また、就業状況別には、もともと自営業主・家族従業者・内職では就業継続率が高水準にあるが(出生年が2015~2019年の第1子出産前後の就業継続率は91.3%)、近年、正規の職員(同83.4%)やパート・派遣(同40.3%)などの雇用者の就業継続率が上昇している。なお、正規の職員の就業継続率は上昇し続けてきた一方で、パート・派遣では2000年代初頭まで2割程度で推移してきたが、足元で約4割へと、これまでの2倍程度に上昇している。

 

背景には、近年の「女性の活躍推進」の流れにおける政府等の啓蒙活動によって非正規雇用者も育児休業制度の利用対象であることの認識も広まったことや「改正育児・介護休業法」にて非正規雇用者の育児休業取得要件が緩和されたことなどがあげられる。