ニッセイ基礎研究所の久我尚子氏が大学卒女性の生涯賃金に注目して推計。働き方によって、どのような違いがあるかみていきましょう。
大学卒女性の働き方別生涯賃金の推計…正社員で2人出産・育休・時短で2億円超、男性並水準で3億円超 (写真はイメージです/PIXTA)

5―おわりに…安心して働き続けられる環境を整備し、将来世代の経済基盤の強化を

2016年にも同様のレポートを発信し、その際は厚生労働省「平成27年賃金構造基本統計調査」等を用いて大学卒女性の生涯賃金を推計したのだが、令和3年の新たな値を用いて推計した本稿でもおおむね同様の結果が得られた(60歳で退職した場合のA-Aについて、前稿は2億3,008万円、本稿は2億2,985万円、他のケースも同様の傾向)。この間、「女性の活躍」が一層進み、少子高齢化による労働力不足や新型コロナ禍による雇用情勢への影響なども生じたものの、現在のところ、長期間にわたる推計には大きな影響は見られない。

 

本稿は、単純に大学卒女性の生涯賃金に注目して推計したものであり、当然ながら、「女性の活躍」は生涯賃金の多寡によるものではなく、本人の意思が尊重されるべきものだ。また、活躍の場は職場だけではなく、家庭や社会など多様にある。一方で、就業希望があるにもかかわらず、就業できていない女性が存在することも事実である。もし、女性の就業希望が叶えられれば、М字カーブは一層、解消に近づき(図表13)、希望通りの働き方ができる女性が増えれば、女性の生涯賃金が増えることにもつながる。

 

【図表13】
【図表13】

 

また、将来を担う世代が結婚や子を持つことを躊躇する大きな要因には経済不安がある(図表14)。経済面が全てを解決するわけではないが、経済的な理由で家族形成をあきらめる状況は救済されるべきだ。

 

【図表14】
【図表14】

 

足元では物価高が進行する中で、政府はエネルギー価格や食料価格の抑制対策や賃上げ支援、低所得世帯への給付といった物価高対策を実施しており、負担感の大きな子育て世帯に向けた給付等を行う自治体もある。生活困窮世帯を中心に即時的な家計支援策の実行が求められる一方で、中長期的には安心して働き続けられる就業環境の整備を進めることは究極の家計支援策と言える。