3―大学卒女性の生涯賃金の推計方法
1.設定した女性の働き方ケース
大学卒女性の生涯賃金について、正規雇用者・非正規雇用者別に、働き続けた場合や出産・子育てで離職をした場合など、11の働き方ケースを設定して推計する(図表8・9)。
2.生涯賃金の推計条件
生涯賃金の推計方法を以下に示す。
・生涯賃金*5=年齢別賃金の合計(※1または2)+退職金(正規雇用者のみ)
※1:正規雇用者及び非正規雇用者の場合
年齢別賃金=きまって支給する現金給与額*6×12ヵ月+年間賞与その他特別給与額
※2:パートタイムの場合
年齢別賃金=(実労働日数×1日当たり所定内実労働時間数×1時間当たり所定内給与額)×12ヵ月+年間賞与その他特別給与額
生涯賃金の推計は、厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」における「きまって支給する現金給与額」及び「年間賞与その他特別給与額」から各年齢の賃金を推計し、それらを合算する*7。なお、大学卒業後、同一企業でフルタイムの正規雇用者として働き続ける労働者として、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」における「標準労働者(学校卒業後直ちに企業に就職し、同一企業に継続勤務しているとみなされる労働者)」を用いる。
その理由は、他ケースとの比較を想定し、育児休業制度や短時間勤務制度などを利用しやすい環境にあり、正規雇用者比率が高い労働者と考えたためである。ただし、標準労働者の賃金の公表値には「所定内給与額」は存在するが、「きまって支給する現金給与額」が存在しないため、同条件の一般労働者における両者の比率から、標準労働者の「きまって支給する現金給与額」を算出する(参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計2021」)。
*5:退職金は必ずしも賃金に当たらないが(就業規則や労働契約等に、退職金の支給条件が定められている場合は賃金に相当)、本稿では便宜上、賃金に含まれる形で生涯賃金を推計している。
*6:労働契約等により予め定められている支給条件により支給された6月分現金給与額(基本給、各種手当等含む)。ここから超過労働給与額を差し引いたものが「所定内給与額」。
*7:本稿の推計は、独立行政法人労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計2021」における生涯賃金推計を参考に、現在の各年齢の賃金を足し合わせて求めている。長期に渡る就業期間では物価・賃金水準は変化するが、賃金水準を現在のものに合わせるという考えに立つ。この方法とは別に、物価水準等を調整して生涯賃金を得る方法も考えられ、賃金の世代間格差などを把握するために適しているが、今年、新卒で働き始めた者の生涯賃金という見方は難しい。
・育児休業利用時の取扱い
育休中は、休業前の賃金水準で「育児休業給付金」が支給されるものとする。育休から復職時は休業前の賃金水準に戻るが、復帰初年度のみ「年間賞与その他特別給与額」は半額とする。
・短時間勤務制度利用時の取扱い
短時間勤務時は残業を行わないため、超過労働給与額を含む「きまって支給する現金給与額」ではなく「所定内給与額」を用いて年収を推計する。また、賃金水準は労働時間数比率(6時間/8時間=75%)を乗じた値とする。また、短時間勤務期間の経過年数は、実年数の75%とし(例えば、短時間勤務を8年間利用した場合、フルタイム勤務6年分に相当)、フルタイム復帰時には、その経過年数に相当するケースAの年齢別賃金に接続する。
・55歳以降の取扱い(正規雇用者)
正規雇用者の55歳以降の賃金は、ケースによらず同水準とする(標準労働者では55歳を境に「所定内給与額」が大きく減るが、ケースによる違いには様々な仮定が必要であり、今回は設定しない)。また、60歳~64歳については再雇用として雇用形態が変わる場合が多くあることを想定し、雇用期間の定めのある非正規雇用者の年齢階級別賃金を用いる。
・非正規雇用者の取扱い
非正規雇用者の賃金は、「正社員・正職員以外」の値を用いる。育休から復職時の賃金水準は、標準労働者と同様に休業前と同等とする。なお、ケースA-Bにて標準労働者が非正規雇用者として復職する際の賃金水準は、第1子出産退職時と同年齢の非正規雇用者と同等とする。
・退職金の取扱い
正規雇用者の退職金は、厚生労働省「平成30年就労条件総合調査*8」の1人平均退職給付額を用いる。ただし、男女別の数値がないため、男女計のものを、学歴種別では大学卒の数値がないため、大学・大学院卒のものを用いる*9。また、出産等による休業のない場合は、勤続年数階級35年以上の値、育休を利用した場合は勤続年数階級30~34年の値(60歳で退職の場合)、第1子出産時に退職した場合は勤続年数階級20~24年の値に勤続年数比率を乗じた値とする。
*8:退職給付額の調査は5年毎実施。
*9:平成30年調査から学歴種別は大学卒から大学・大学院卒へと変更。よって、実際の大学卒の女性の平均退職給付額より多い可能性がある。