ニッセイ基礎研究所の熊紫云氏は、資産形成のためには、債券、株式、不動産等投資商品を活用するのが必要で望ましい一方で、資産形成に向けてやってはいけないこともあるといいます。みていきましょう。
資産形成、やってはいけないこと…FX取引、暗号資産、NFTに手を出してはいけない (写真はイメージです/PIXTA)

2―投機の具体例

本章では、投機に該当する取引や商品の具体例を詳しく見ることで、投機が資産形成に向いていない理由を説明したいと思う。

 

1.株式のデイトレード

株式、債券などの証券商品は投資手法によって、長期投資と短期売買に分けることができる。株式の短期売買の代表的な方法としては、一日という短期間の値動きから利益を得ようとするデイトレードがある。デイトレードは市場が開いている間、株式を購入したり、株式を売却するなど、一日のうちに利益確定をするという特徴がある。【図表1】で株式のデイトレードについて考えてみよう。

 

【図表1】
【図表1】

 

以下の3つの取引がそれぞれデイトレーダーの間に発生したとする。この日の9時、Aさんは100万円で空売りし、Bさんが買った。10時、Bさんは株価80万円で損切して売り、Cさんが買った。14時、Cさんは株価110万円で売り、Aさんは110万円で買い戻した。

 

この一日、Aさんが100万円で売り、110万円で買い戻して▲10万円の実現損、Bさんが100万円で買い、80万円で売って▲20万円の実現損、Cさんが80万円で買い、110万円で売って+30万円の実現益があった。一日を終えて、デイトレーダー全員の購入金額と売却金額は同額であり、損益を通算するとデイトレーダー全員の利益合計は基本的にゼロである。

 

株式のデイトレードでは、一般的に市場が開いている間に売買が終了するので会社の配当を受け取ることができない。また、将来の業績が期待できる会社の株式は中長期的に会社価値が上昇し、それとともに株価も上がっていくと期待できる。しかし、【図表2】のように中長期的に会社価値(ファンダメンタルバリュー)が上昇しても、たった一日(図表2:黒い丸)では会社価値がほぼ変わらず、一日の株価は基本的に様々な情報による投資家間での需給関係だけによって上下すると考えて良い。

 

【図表2】
【図表2】

 

このように、株式は長期的に投資商品として値上がりが期待できても、短期取引をするとインカムも価値増加の仕組みもないため、投資家全員の持ち分合計は一定である。従って、一日中、どれだけ取引を行っても、その日にデイトレードを行った投資家全員の利益合計は基本的にゼロとなるので、麻雀と同じでゼロサムゲームである。手数料や税金等を考慮するとマイナスサムゲームとも言える。株式のデイトレードは投機であり、資産形成に向いていない。