老後の生活資金確保や住宅購入等のためには、まとまった資金を準備する必要がありますが、十分に資産形成をするために、どのような金融商品を購入したらよいのでしょうか。ニッセイ基礎研究所の熊紫云氏によるレポートです。
資産形成に向いている投資商品とは何か…何に投資をしたら良いか迷うのであれば、iDeCoやつみたてNISAなどを活用すべき (写真はイメージです/PIXTA)

1―ゼロ、マイナス、プラスサムゲームとは

人の一生においては、結婚と出産の費用、教育費、住宅購入、老後資金など、大きな支出を伴うライフイベントに備えるため、働いて得たお金を貯蓄や資産運用などでまとまったお金を準備する必要がある。特に人生100年時代において、多くの人は公的年金だけでは経済的に老後を安心して生活するのが難しく、老後を見据えた資産形成が必要である。

 

しかし、世の中には、預貯金、株式、債券、不動産、FX取引、暗号資産、NFTなど多種多様な商品が溢れている。安心してお金を増やしていくために、どのような金融商品を購入したら良いのかを考えてみたい。特に、資産形成に向いていない投機やギャンブルと、資産形成に向いている投資との違いについて説明してみたい。資産形成をする際に少しでも参考になれば幸いである。

 

まずは、日常生活に良くある事例から、ゲーム理論でのゼロサムゲームについて説明したい。

 

ゼロサムゲームというのは参加者全員の利益と損失の合計が変わらずゼロとなるゲームなのだが、その代表例としては麻雀がある(図表1)

 

 

【図表1】
【図表1】

 

一般的に麻雀ではゲーム開始の時点で、プレイヤーのAさん、Bさん、Cさん、Dさんの持ち点がそれぞれ25,000点、合計100,000点である。ゲームでは4人の中で、この100,000点を取り合う。たとえば、ゲーム終了の時点、Dさんは50,000点、Cさんは30,000点、Aさんは20,000点、Bさんは0点という結果になったとする。Aさんは5,000点、Bさんは25,000点負けたのに対して、Cさんは5,000点、Dさんは25,000点勝ったことになる。しかし、プレイヤー4人の持ち点の合計は常に100,000点であり、参加者全員の利益合計は常にゼロになる。

 

このことをアップルパイに喩えてみると、ゲームでパイ(参加者の持ち分)の分け方を決める場合、ゲーム終了時のパイの大きさはゲーム開始時と同じで変わらないので、参加者全員で、同じパイを奪い合うゲームということになる。

 

このように、ゼロサムゲームでは、誰かの利益は、必ず誰かの損失になるので、参加者全員の勝ち負けを合計するとゼロになる。

 

さらに、参加者全員の利益と損失の合計がマイナスになるというマイナスサムゲームがある。その代表例としては宝くじが挙げられる。

 

「宝くじ公式サイト」令和3年度のデータによると、宝くじの売上額が合計8,133億円である。しかし、支払われた当選金は3,758億円と、8,133億円の半分にも満たさない。宝くじを買う参加者全員で4,375億円の損となるので、マイナスサムゲームと言える。

 

宝くじは各都道府県等が実施する公共事業などで使う資金の調達を目的として発売されている。基本的に参加者全員が受け取る当選金は宝くじの売上額より大幅に少ない。宝くじを買う参加者のうち、運がとても良く1億円以上の高額当選とかする参加者はほんの一握りだ。売上額の残りはおおむね社会福祉のために使われている。アップルパイで言うと、参加者全員が受け取るパイを全部合わせてもパイの大きさは半分にもならないということである。

 

プラスサムゲームは参加者全員の利益と損失の合計がプラスであるゲームなのだが、その代表例として、都道府県が開催していた飲食店を応援するGo To Eatキャンペーンを紹介する(図表2)

 

【図表2】
【図表2】

 

たとえば、東京都からプレミアム食事券10,000円で購入すると、購入額よりも25%お得で12,500円分のプレミアム食事券をもらえる。2名の食事券購入額合計が20,000円、食事券利用額合計が25,000円になり、食事券を購入した人はそれぞれ2,500円、合計5,000円分だけ得をすることになる。

 

これをアップルパイに喩えてみると、ゲームに参加する参加者全員が受け取るパイを全部合わせると、もともとのパイより大きくなるお得なゲームということになる。

 

ゼロ、マイナス、プラスサムゲームに参加した結果はこのように全く違う。また、ゲームによってはゼロ、マイナス、プラスのどれなのか、良く分からないものもある。

 

次章で、この3種類のゲームの違いを応用して、投機とギャンブルと投資の見分け方を提示し、何故、投資が資産形成に向いているのかについて説明していきたい。