ニッセイ基礎研究所の熊紫云氏は、資産形成のためには、債券、株式、不動産等投資商品を活用するのが必要で望ましい一方で、資産形成に向けてやってはいけないこともあるといいます。みていきましょう。
資産形成、やってはいけないこと…FX取引、暗号資産、NFTに手を出してはいけない (写真はイメージです/PIXTA)

2.FX取引の短期売買

FX取引(外国為替証拠金取引)は2つの国の通貨を交換するレートの変動から売買を行う商品である*2。為替レートは24時間変動しているので、FX取引はいつでも行える。

 

外国為替市場で日本の個人投資家が欧米の報道機関によって「ミセス・ワタナベ」と名付けられるほど、注目されている。これは、日本の会社員がFX取引を行い、日本のお昼休み時間帯に特異な為替変動が起こるからと言われている。このようなインパクトまで生じるほど、日本においてFX取引を行っている人が多いのであろう。

 

【図表3】でFX取引の短期売買を分かりやすく説明するため、為替レートの変動を現実よりかなり大きくした例で説明する。ある日21時、ドル円為替レートが「1ドル=130円」になった時にAさんは130万円でドルを買い、Bさんが1万ドルで円を買ったとする。Aさんは1万ドルを保有し、Bさんは130万円を保有することになった。

 

【図表3】
【図表3】

 

翌日6時に、ドル円為替レートが「1ドル=150円」に動いた。Aさんは1万ドルを保有しており、円貨換算で150万円になり、元手の130万円に対して+20万円の含み益がある。一方、Bさんは130万円をドル換算すると、0.867万ドルになり、元手の1万ドルに対して▲0.133万ドル、つまり円換算すると、▲20万円(▲0.133万ドル×150円/ドル)の含み損が発生している。AさんとBさんの利益合計は±0円である。この時に実際に売買を行うと含み損益は実現損益になる。

 

2日目21時のドル円為替レートが「1ドル=120円」に動いた場合を見てみよう。

 

Aさんが保有する1万ドルを円換算すると120万円となり、元本130万円より含み損▲10万円が出ている。一方、Bさんが保有する130万円のドル時価は1.083万ドルとなり、元本1万ドルより含み益+0.833万ドル、円換算で+10万円(+0.083万ドル×120円/ドル)である。2日目21時でも、投資家全員の利益合計はゼロである。この時に実際に売買を行うと含み損益は実現損益になる。

 

このように、FX取引でも、外貨預金の金利と似たようなスワップポイントをもらう目的とした長期取引であれば投資であるかもしれないが、為替変動から利益を獲得しようとするFX取引の短期売買ではインカムも受け取れず、価値増加の仕組みもないため、麻雀と同じで、どの時点で取引を行っても投資家全員の持ち分合計は常に一定であり、投資家全員の利益合計はゼロであることが分かる。

 

さらに、日本においてはFX取引でレバレッジをかけて少額から高額な取引をすることができる*3【図表3】のAさんは、単純計算で3,250万円(元本130万円×レバレッジ最大25倍)の取引ができる。しかし、ドル円為替レートが「1ドル=120円」に動いた時点で売却したら、▲10万円の25倍である▲250万円もの損失が出る可能性がある。レバレッジをかけると、儲ける時は利益が大きくなる一方、損をする時は大きな損失が発生する可能性があり、リスクが高すぎる。

 

FX取引の短期売買は基本的にゼロサムゲームで、手数料や税金等を考えるとマイナスサムゲームであるとも言える。FX取引の短期売買は投機であり、資産形成に向いていない。特にレバレッジをかける場合は極めてリスクが高い投機であり、けっして素人が手を出してはいけないと思う。

 

*2:金融庁HP(https://www.fsa.go.jp/ordinary/iwagai/)を参考した。

*3:知るぽるとHP(https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/yogo/k/gaikoku_kawase_shokokin_torihiki.html)を参考した。