極端に短い日本の住宅の寿命
国土交通省が推計した「滅失住宅の国際比較」というデータによると、滅失登記をした住宅の築年数は、日本は平均32.1年です。つまり解体された家は約32年しか経っていなかったという意味です。一方でイギリスでは80.6年と日本の2倍以上です。なぜ日本の住宅はそんな短期間で解体されてしまうのでしょうか。理由は主に3つ考えられます。
1つ目の理由として挙げられるのが、建物の品質の問題です。日本では高度成長期に住宅が足りず質より量を追求した背景があります。なかには極端に劣化した建物があるのは否めません。
2つ目の理由に「中古住宅市場が活発ではないから」というものがあります。欧米では古い住宅にリフォームを施すことで資産価値を上げ、高く売却することも可能ですが、日本ではそういう考え方と市場は育っていません。「古民家再生ブーム」は一部でありますが、それはあくまでも何十年も前にお金を潤沢にかけて建てられた立派な屋敷に手を入れる話です。実際には高度成長期に建てられ躯体が激しく劣化した建物を再生するより、壊して新築にしたほうがよくなるのは当たり前です。
3つ目の理由として挙げられるのが「老後生活に不便な間取りだから」です。若いころには問題なく住むことができた建物も、足腰が弱ってしまうと住みづらくなります。寝室が2階にあったり、トイレやお風呂が狭かったりするだけでも高齢者が自宅で生活するのは困難です。それもあって同じ敷地で建て替えていることが考えられます。しかし間取りが不便でも、建て替えができるほどの経済力がある家庭は多くありません。特にこれから老後を迎える世代にとっては、一生に2度も家を買うのは難しいでしょう。
30年前といまの時代が違うのは、住宅価格の上昇です。建物価格は高くなっているのに給与はさほど上がっていません。そうなると、いまの30代は買う住宅物件を間違えると、「もう住みづらい家なのに借金だけは残っている」という状況になりかねないのです。建物の性能が上がっている現代では、建物の寿命は80年程度であるという研究もあります。しかし建物そのものではなく、老後に不向きであるという事情で早くに寿命を迎えてしまうこともあり得ます。
Aさん夫婦を待ち受ける老後の大問題
Aさん夫婦が希望する物件を買ったとしたら老後にどんな問題があるでしょうか。想像できるポイントをまとめてみます。
・坂道が多くスーパーに買い物に行くことも重労働になる
・2階に寝室があるがトイレは1階にしかない
・1階のリビングは狭く、不便な身体では転倒する危険がある
・自宅で倒れたら救急隊が運び出すのも時間がかかる
・建物の寿命に不安がある
介護状態といっても寝たきりであるとは限らず、家族の支えを借りてなるべく住み慣れた自宅で生活したいと思うでしょう。それが物理的に無理であれば、介護施設などで生活することになります。もう少し自宅で過ごしたかったと後悔が残るかもしれません。
「その建物の寿命は何年と想定しているか」、「自身が80歳になったときもその家に住み続けるのは想像がつくか」これらのことを考える必要があります。Aさん夫婦の場合、候補の建売の狭小住宅はAさんが80歳になるまでの49年ももたないでしょう。さらに80歳になるときには、2階が寝室であるため、階段は大変負担になることが想像できます。
この自宅を売って早めに高齢者マンションなどに移ることも考えられますが、建物のクオリティ面から、40年後に中古住宅として売却するのは難しいかもしれません。劣化がひどいため、解体し更地にして売るしかなくなれば、手元に残るお金は減ります。老後にも住宅ローンが残っていれば売却しても残債を相殺するだけです。
この物件はAさん夫婦にとっては安い買い物といえるかもしれませんが、大きなリスクとなりうる物件です。Aさん夫婦の場合はこの4,000万円の物件ではなく、予算を6,000万円に引き上げても老後の対策が取れる住宅を検討するほうが今後の利益が大きいかもしれません。
検討する際のポイントは次のようなものです。
・外壁や屋根のメンテナンスが安価であること
・建て替えが不要であること
・1階に寝室を設け、リビングを広く取ること
・徒歩で生活できるよう、近隣にスーパーなどがあること
・人口減となっても売却しやすいであろう立地であること
これらは快適な老後生活への投資ともいえます。予算は大幅に上がりますが、メンテナンスが安価で、建て替えも不要であるため生涯支出はむしろ抑えられます。