離れて暮らす両親に「相続」の相談をするも…
親としては晴天の霹靂で、当初猛反対だったのですが、Aさんの意思は固く気持ちが変わることはありません。30代半ばにかかったAさんの年齢のこともあり、「このまま反対しても一人娘の人生を奪うことになるのではないか」という気持ちから、やがてAさんの結婚とアメリカへの移住を認めることになります。こうして渡米したAさんは子宝にも恵まれて、アメリカで幸せに暮らし始めました。
そして、それから月日が15年間流れます。Aさんは48歳、父は79歳、母も77歳になりました。両親は兵庫県の郊外の町で変わらず暮らしています。車がないと不自由な場所のため、免許返納のことが気になりつつ、毎日のように運転をして日用品の買い出しをしています。足腰の弱さはなんとなく感じつつも、まだまだ元気という印象です。
Aさんも親が歳をとったことは感じつつも、「まだまだ大丈夫。お父さんもお母さんもまだ若いよ」とゆったり構えています。とはいえ、父に万が一のことがあったときの相続税だけはどこか心配です。贅沢をしない暮らしをしてきた2人の資産はそれなりにあることを、なんとなく知っていたからです。
久しぶりに帰省した際、Aさんは両親にこう伝えます。
「お父さんもお母さんもそれなりの年齢だから、万一のことがあったときに、相続税がどれくらいかかるのか私も知っておきたい。友達が相続税の支払いで大変だったと聞いたよ。それに、私は離れて暮らしているし、そのうち老人ホームも考えたほうがよくない? なにかあってから私が困るのだけは避けたいのよ。いまから話をしておいたほうが合理的じゃない」
娘のどこか真剣みのない軽い話しっぷりに、父の反応は
「たまに帰ってきたらそんなことか。お前は一人娘だから相続のことは心配しなくていい。全部お前が引き受けてくれたらいいし、相続税はそのなかから払えばそれでいい。万一のことがあったら、老人ホームに入所するくらいのお金はもう準備できている。それでなにが問題なんだ?」
一方、母の反応は
「私はお父さんに付いて行くだけだよ。本当はお前には普通に結婚して、普通にこの辺で暮らしてくれたらいいと思ってたんだけどね……」
そんな反応に話がかみ合いません。Aさんもどこか重苦しい雰囲気に、相続の話を止めざるを得ませんでした。