「お金目当てと思われそう」、あるいは「まだまだ若いから大丈夫」と、なかなか親に相続の相談ができない人は少なくありません。親を傷つけずに円満に相続の話を切り出すには、どのような点に注意するべきなのでしょうか。今回は、両親と離れて暮らすAさんの事例とともにCFPの森拓哉氏が解説します。
「相続のことは心配するな」の一点張り…昭和気質で頑固な父を動かした、一人娘の一言【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

さらに4年後…相続の話が動き出したきっかけは

(※画像はイメージです/PIXTA)
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それからさらに4年の月日が流れました。父は83歳、母は81歳となりました。ようやくコロナの影響も落ち着いてきて、久しぶりの帰省が叶ったAさんは両親のもとへと急ぎます。コロナ禍で自宅で過ごすことも増えた両親は、この3年で目に見えて足腰が弱くなっていました。要介護認定も受けて、デイサービスや自宅の掃除なども人の手助けを受けながらの生活が始まっていました。

 

いよいよ差し迫った感を感じたAさんは、3年前と同様、老人ホームへの入所や相続税の心配もありましたが、「目の前の親の状態をなんとかしたい!」「たとえわずかでも手伝わないと!」という気持ちがふつふつと湧いてきました。

 

「お父さん、お母さん、だんだん2人が衰えていることが伝わってくる。日々の介護も本当はしたいし、毎日お父さんお母さんのことを考えている。でも、離れて暮らしているから物理的にどうしても難しい。せめてお金周りの管理や、支払い関係だけでも手伝える状態を作っておきたい。遠くからでもできることはやりたい。

 

お父さんにもしなにかあったら、お母さんは1人で手続きなんてやったこともないし、いままでお金の管理自体やったこともない。お母さん1人だとできないよね。私、そこはしっかりサポートしたい。いまのままだと、なにをどうしたらいいか、お母さんも私もわからない」

 

以前のような相続税だけの心配ではなく、目の前の両親に向き合いたい気持ちが感じられるAさんの真剣な様子に、父も母も黙って聞き入ります。Aさんは続けます。

 

「本当は私も近くにいてサポートできることをしたい。お母さんがそれをずっと望んでいることはいつも感じている。本当に本当にごめんね」帰省して、直接のコミュニケーションがなかなかできなかったなか、Aさんは涙も浮かべながら両親に語り掛けます。

 

そんな姿に父も腕を組んで黙って聞いていたのですが、瞼の奥に少し光るものが見えたようにも思えます。父の年代の方は我慢強く、涙を見せることはめったにありません。ただ、黙って堪えて生きているのです。

 

一息深いため息をついた父は

 

「そうだな……私も頑固ばかりではいけないな。できることからやろうか。なにから始めようか?」

 

なかなかいってくれなかった言葉をいってくれた父は、少しずつ行動にうつります。まずは財産目録を作ることになりました。OO銀行、OO証券の口座情報、不動産情報、これら資産をAさんが管理するためにどうすればいいか、父に万が一の際、母はどのように動けばいいかなどの検討が始まりました。海外で暮らすAさんが、どこになんの連絡をして、どの資金を使えばいいかわかるように動き出したのです。