遺言書は完璧に残したものの、どこか残った家族のしこり
相続対策を考えるうえで外せない対策の一つとして、「遺言書を残すこと」が挙げられます。
亡くなった人の財産が、必ずしも法定相続分のとおりに綺麗にわけられるわけではありません。遺言書を残すことで、残された家族がスムーズに相続手続きを行えるというのは明らかな大きなメリットといえるでしょう。
日本公証人連合会の発表によると、令和5年には遺言公正証書の作成件数が11万8,981件に達しました。また、法務省民事局によると、自筆証書遺言を法務局で預かる『遺言書保管制度』の利用状況は月間約2,000件で推移しており、遺言書作成への関心が高まっていることがわかります。
一方で遺言書はいわゆる財産のわけ方が役割の中心となっており、「思い」や「考え」の継承という点について詳しく残されているわけではありません。「なぜそのわけ方をしたのか?」という疑問を解消することは、残された家族にとっては大切なこれからの人生の指針となります。しかし、「死人に口なし」というように、その理由がわからなければどこか釈然としない部分が残ってしまうかもしれません。
地主一家の相続
関西の中核都市に暮らすAさんの実家は、もともと農家を営んでいました。一人っ子だったAさんは、結婚の際に婿入りしてくれる相手を見つけてほしいと、両親から常々いわれていたそうです。幸い、Aさんの結婚相手であるご主人は三男で、婿入りに同意し、Aさんの家を継ぐことになりました。
時代が流れ、Aさん夫婦はアパート経営で実家を守ってきましたが、ご主人は先に他界してしまいます。
その後、Aさんは一人でアパート経営を続けましたが、年齢を重ねるにつれて管理が難しくなり、「実家で一緒に暮らして家業を手伝ってほしい」と長男Bさんに助けを求めます。そんなBさんも、ちょうど勤めていた会社で早期退職の募集があったタイミングで、仕事を続けることに限界を感じていたこともあり、実家に戻る決断をします。
一見、不動産経営(大家業)を引き継ぐと安定した生活を送れるように思われるかもしれません。しかし、古びたアパートには常に空室のリスクを抱えています。また、金融機関への返済や修繕費の負担も増え、現実はそう簡単ではありません。Bさんはその現実を冷静に受け止め、不動産管理を続けながら地元の大型スーパーに就職。収入の補填を図りながら堅実な生活を送っていました。また、高齢の母親の日常的な世話にも献身的に取り組むなど、生活を支える存在でした。