生き方の多様化、長寿化、配偶者との死別により今後ますます日本で一人暮らしをする高齢者は増えていくでしょう。一人で暮らしているうちに、家族の知らないところでトラブルに巻き込まれたら……遺産相続にまで影響し、取り返しのつかないことになるかもしれません。本記事ではAさんの事例とともに、一人暮らしの高齢者のトラブルについて、株式会社アイポス代表の森拓哉CFPが解説します。
再婚・家政婦に全財産を…結婚生活の痕跡なし、80代父は死亡。生前馴染みだった店のマスターが明かす「60代後妻の所業」に娘、開いた口がふさがらない【CFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

一人暮らしをしている世帯の半分は65歳以上の高齢者

厚生労働省がまとめた2023年の国民生活基礎調査によると、一人暮らしの世帯数(単身世帯数)は1,849万5,000世帯と全体のうち34.0%を占め、過去最高となっていることがわかりました。そのうち65歳以上の単身世帯は855万3,000世帯。一人暮らしをしている人の46%を65歳以上が占めていることになります。もともと独身、結婚ののち離婚、死別など事情はさまざまですが、1,000万人近くの高齢者が一人で暮らしているというのは衝撃的な状況です。

 

こうして一人で暮らす高齢者は、トラブルに巻き込まれてしまうことがあります。警察庁が発表した「令和4年における特殊詐欺の認知・検挙などの状況について」によると令和4年の特殊詐欺の認知件数は1万7,570件で被害額は370億円でした。このうち65歳以上の高齢者が被害にあった件数は1万5,144件と全体の86%にもおよびます。

 

増え続ける高齢単身世帯をどう支えていくのかという課題への対応が求められています。今回は妻と死別した80歳男性Aさんの事例をもとに、一人暮らしの高齢者が陥ったトラブルを紹介していきます。

 

※事例は、実際にあった出来事をベースにしたものですが、登場人物や設定などはプライバシーの観点から変更している部分があります。また、実際の相続の現場は、論点が複雑に入り組むことが多々あり、すべての脈絡を盛り込むことは話の流れがわかりにくくなります。このため、現実に起こった出来事のなかで、見落とされた論点に焦点を当てて一部脚色を加えて記事化しています。

長年連れ添った妻を亡くし…80歳で一人暮らし

80歳のAさんは自宅で一人暮らしをしていました。Aさんは年金暮らしですが、お金に対する不安や不自由はありません。高度経済成長期のころ会社員として働いた現役時代は大手ゼネコン企業に勤め、執行役員まで上り詰めました。その後は、関連会社で社長を務めて70歳で引退。引退後は企業戦士として走り回った日々に別れを告げ、長年連れ添った妻Bさんと老後の暮らしをゆっくり楽しむはずだったのです。

 

ところが、そうした老後のささやかな願いは引退後5年で散りました。妻のBさんが突然くも膜下出血を発症して他界してしまったのです。悲しみが癒えぬままAさんの一人暮らしが始まります。長らく企業戦士として働いてきたAさんは、家事がまったくできません。75歳になったAさんはまだまだ現役時代のプライドを手放すことができず、老人ホームに入る気持ちにもなれませんでした。

 

Aさんの一人暮らしの食事は、もっぱら外食となります。もともと羽振りよく過ごしてきたので、馴染みのお店は沢山あります。常連客やその場で出会ったお客さんと語り合う飲食店は、妻を亡くしたAさんにとって、癒しの場でもありました。いきつけのスナックにその日出会ったお客さんを連れていくこともしばしば。一人暮らしの孤独は辛いものでしたが、こうして外で気の合う仲間とワイワイ過ごして、他人に話を聞いてもらう日々にも楽しい部分があると気づき、新しい生活にだんだんと慣れていきました。