AさんとBさんが潜在的に抱える「3つのリスク」
住宅ローンの借り入れについては無事クリアしたAさんとBさんでしたが、ご本人たちが気づかぬリスクが3つあります。
1.相続
まず、2人は婚姻関係にないため、それぞれに「法定相続人」が存在します。AさんとBさんのどちらかが亡くなったとき、遺言書があったとしてもすべての財産をお互いが相続することはできません。法定相続人には「遺留分」という権利があり、遺言書があっても法定相続分の1/2を受け取ることができるからです。
Aさんには両親と2人の弟がいますが、同性パートナーの件で理解が得られず疎遠となっているため、もしも将来的にAさんが亡くなった場合、遺されたBさんはAさんの両親と険悪な「相続争い」になることが予想されます。一方のBさんにも、母親と兄がいます。こちらも疎遠であるため、同様のリスクが存在します。
お互いどちらかが亡くなったときに、自宅の名義の持分が法定相続人に相続されることは避けたいところです。スムーズに名義変更できるよう、「遺言書」の作成と「任意後見契約・合意契約」を行っておくべきでしょう。
また、法定相続人との円満な遺産分割を実現するためには現金を用意します。といっても、そのための貯蓄をいますぐ用意するのは困難であるため、「生命保険」を活用するといいでしょう。お互いを「受取人」としたうえで生命保険に加入しておき、死亡時に現金を受け取れるようにするのです。こうすれば、保険会社から受け取った保険金を法定相続人への代償相続として交付することができます。
2.生命保険
いまのところ婚姻関係を持てないLGBTQカップルにとって、生命保険は幾多の問題を解決できる便利な仕組みです。先述した相続の解決にはもちろんですが、AさんとBさんの場合、どちらが亡くなっても住宅ローンを残さないようにお互いに死亡保険に加入しておくことで、家を売却する際にも有利になります。ローンを完済した家を売却し、その代金を法定相続人と分割することもあり得ます。
ただし、LGBTQの生命保険加入には住宅ローンと同じく一定のハードルがあります。まず、お互いを受取人として加入できる保険会社は限られています。生命保険の受取人になれるのは、「配偶者と2親等以内の血縁者」と定めてられている保険会社が多いです。同性パートナーを受取人に指定できる保険会社はいくつか存在しますが、自分が望む保険商品を取り扱っているかは別問題でしょう。
また、税務上でも不利な点があります。同性パートナーが死亡保険金を受け取った場合、生命保険非課税枠(500万円×法定相続人の数)は適用されません。もし相続財産の合計が一定額を超えた場合には相続税が発生しますが、同性パートナーが相続した場合には相続税がさらに20%割増しになります※。
※ 相続税法第18条(相続税額の加算)
このため、適切な死亡保険金の額は納税額を考慮して決めなければなりません。プロに依頼して計算してもらう必要があります。
子なし、親類と疎遠…「マイホーム」処分にも課題が
3.2人亡きあとの「マイホーム」
子どもがいないAさんとBさんの場合、将来的に2人とも亡くなったあとでの自宅の処分に課題があります。ただしこれは同性カップルに限らず、子どもがいないすべての世帯に起こりうる問題です。
親族と疎遠になっているうえに将来の自宅に資産価値がない場合、引き受け手がなく遺族に迷惑をかけてしまうことが想定できます。相続で問題を起こす前に、一定の年齢で売却し高齢者マンションなどに移ることも考えておくべきかもしれません。自身の体力や認知能力に余裕があるうちに現預金を中心とした資産に変えておき、遺族に迷惑かけない工夫が必要です。
日本はこれからますます人口減社会となるため、立地次第では売却が困難になることも考えられます。引き継いでくれる子どもなどがいない場合、購入する前に将来その物件の資産価値がどうなるのか、慎重に考えておくべきです。
長岡 理知
長岡FP事務所
代表