3―在庫戸数も増加している
ただし、2022年10月の新築分譲戸建ての在庫戸数は13,056戸(前年同月比+54.7%)と、2022年2月以降、急速に増加しており、実需を超えた戸数が供給された可能性がある。
新築の定義は、「建物完成から1年かつ、今まで居住者がいないこと」である。建物完成から1年を超えれば新築ではなくなるため、在庫戸数が急増した2022年2月から1年を経過する2023年2月ごろまで在庫の増加が続けば、建築後1年を経過した分譲戸建て(新古戸建て)が顕在化し始めると思われる。
1年が経過した新築住宅は、理論的には新築よりも価値が減少する。供給者が「完成後1年を迎える前に売却したい」という気持ちになりやすく、交渉の余地が生じるかもしれない。今後、新築分譲戸建ての価格の上昇には歯止めがかかる可能性があるのではないだろうか。
また、2022年10月の中古マンションの在庫戸数は40,300戸( 前年同月比+14.4%)と9ヵ月連続で増加した。在庫戸数は、年単位で増加が続くことが多く、現在の勢いも強い[図表5]。
中古マンションの場合、近年では元の所有者から不動産業者がマンションを買い取り、内装や水回りなどの設備を新築同様に更新してから、設備相応の値段で購入希望者に販売するのが通常である。販売価格が購入希望者の予算以内であればよいが、過剰な設備投資などにより販売価格が購入希望者の予算を上回ってしまうこともある。上昇し続けてきた中古マンション価格であるが、購入希望者が「適当と考える水準より価格が高い」と考え、成約に至らなかった物件が市場に積みあがってきているのだろう。
なお、新築マンションについては、2022年10月の販売在庫は4,945戸(前月から+148戸、前年同月から▲431戸)で、前年を下回る月が25ヵ月連続し、完成在庫も2,343戸と前年同月から▲405戸減少している。開発用地価格の高騰などから新築マンションの供給量自体が減ったために在庫戸数も減っており、10月に初月契約率が70%以上を回復したことも併せると、新築マンション市場では価格は高水準で安定しているとみる。
4―中古マンション、新築分譲戸建ての購入希望者は買いたい物件でなければ慌てて買う必要はないかもしれない
現在の売買市場においては、開発用地の価格が高く、建築費についても上昇傾向である。投資額が大きく膨らんでいるため、住宅供給者が価格を下げることは容易ではない。特に新築マンションについては人気が高い上に、供給量が少ない。在庫戸数も安定していることから、需要者の不足により市場が崩れるということはまずないだろう。
一方、長期金利の上昇、コストプッシュによる物価の上昇、賃金の低迷など、住宅市場を減速させる可能性のある複数のマクロ経済要因が生じている。購入希望者層の可処分所得の減少は、ローンの借入可能額やローン返済計画を通じて住宅の購入予算を引き下げ、住宅市場の価格上昇傾向を転換させる可能性があり、今後慎重に見ていく必要があるだろう。
首都圏住宅市場全体では取引戸数が減少し、新築マンション以外の市場では在庫戸数が増加している。特に新築分譲戸建ての在庫戸数の増加が続いた場合には、新築の期限である建築後1年を前に、売却価格の見直しや、キャッシュバックキャンペーンなどの実質的に価格を引き下げる販売方法に変化する可能性がある。
不動産の売買は交渉事であり、住宅であっても容易に価格が下がるわけではない。また、不動産は一つとして同じものがないため、購入を見送った後、再度同じような住宅に出会うかはわからない。「気に入った住宅があったなら、市況には関係なく購入する」のが正解の場合もある。しかし、「住宅は購入したいが、買いたい住宅に出会えていない」という人は、慌てて買うのではなく、価格に見合う良い物件を粘り強く探すという選択肢もあるのではないだろうか。