(※写真はイメージです/PIXTA)

一日の半分を過ごす「家」の安全性を高めるには、どうすればよいのでしょうか? “地震に対する構造”から見た「地震に強い家」について、株式会社ビーテクノシステム 代表取締役社長・谷山惠一氏が解説します。

いつ大地震が起きても不思議ではない、日本の現状

1995年1月17日の阪神淡路大震災から28年、2011年3月11日の東日本大震災から12年、2016年4月14日・16日の熊本地震から7年。その間にも、新潟中越地震、大阪府北部地震、北海道胆振東部地震(2回)と、この28年間で日本は8回も震度6以上の大地震に見舞われ、甚大な被害を受けています。

 

また、30年以内に首都直下地震が発生する確率は70%、東海地震は88%と大変高い数値になっており、いつ大地震が起きても不思議ではない状況です。

 

このようななか、一日の半分を過ごす「家」の安全性を高めるには、どうすればよいのでしょうか? どのような構造であれば、地震の被害を最も少なくできるのでしょうか。

 

ここに、一つの記録があります。それが図表1、阪神淡路大震災で亡くなった方の死亡原因調査の結果です。発生当時、火災の広がっていくショッキングな映像が報道されたために、焼死が多かったのでは?と考えられがちですが、焼死は約10%でした。実際には「窒息・圧死」が約80%を占めていたのです。

 

国土交通省近畿地方整備局のグラフを基に作成
[図表1]阪神淡路大震災における死亡原因 国土交通省近畿地方整備局のグラフを基に作成

 

ここで注目すべきは、窒息・圧死は、家屋の倒壊によるものもそうですが、タンスや本棚といった家具の下敷きになったことや、冷蔵庫やテレビ等の家電製品が衝突したために起きたものも多かったということです。

 

これらのことから、「強い家」⇒「住民の被害を最小限にできる家」⇒「倒れない家、家具・電化製品が飛び回らない家」ということが言えます。

 

では、具体的に「強い家」とはどういう家なのかを見ていきましょう。

“地震に対する構造”から考える「強い家」

地震に対して「強い家」というと、「耐震」「制震」「免震」という言葉をよく耳にします。ただ、これらに関して述べる前に、もっと基本的なことを考えなければなりません。

 

それは、あなたが家を新築するときに考えなければいけないことで、すなわち

「1. 揺れ(地震力)を家の中に入れる構造にする」か、

「2. 揺れ(地震力)をできるだけ入れない構造にする」か、

ということです。

 

1. に該当するのが「耐震」「制震」構造、2. に該当するのが「免震」構造になります。

 

当然、ほとんどの方が「2.が良い」と思うのではないでしょうか。 実際、「免震」構造の家が最も「強い家」になるのです。では、以降でそれぞれの構造について説明します。

 

[図表2]家屋の対震構造の比較

揺れを家の中に入れる構造、「耐震」と「制震」

<耐震構造>

まず、「耐震」構造です。現在の建設会社、ハウスメーカーは「耐震」構造を勧めています。「耐震」構造は、皆さんも建築中の住宅を通してよく見かけていると思いますが、基礎コンクリートにアンカーボルトを埋め込み、その上に載る家屋を固定する構造です。ですからこのアンカーボルトが切断されない限り、揺れ(地震力)は家に入ってきます。そのうえで、家が倒壊しないように柱と梁を金物でしっかりと固定します。家の構造が木造、鉄骨造、RC(鉄筋コンクリート)造であっても同じです。そして、家の中に入ってきた揺れは二階へ到達すると増幅され、さらに大きく揺れるのです。

 

<制震構造>

「制震」構造は、基本的には「耐震」構造と同じですが、揺れにより壁が変形するのを利用して、そこに減衰材(ダンパー)を設置し、揺れを吸収させるというものです。しかし一方で、変形しないように強固にしていながら、変形を利用する、という矛盾が起きます。なので、その効果も限定的と言わざるを得ません。

「耐震」「制震」が持つ、避けられない“最大の欠点”

「耐震」「制震」ともに、家は倒壊しません。なぜなら、2001年に施行された「品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)」で規定される“耐震等級1”、つまり建築基準法の耐震性能を満たす水準で建築しなければならないからです。

 

しかし、問題はそこではありません。問題は“家の中”です。100%何らかの被害を受けるのは、“人の心”です。震度7で揺さぶられ、家具や電化製品が飛び交う家の中にいて、人はどのように感じるでしょうか?

 

阪神淡路大震災では、家の倒壊は防げたものの、激しい揺れに襲われた恐怖心や無力感が原因となり、被災者たちが心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しんだことが大きな問題となりました。熊本地震では、被災後に屋内に入ることを回避して車中で生活していた方が、エコノミー症候群で亡くなっています。これこそが、「耐震」「制震」構造の避けられない最大の欠点なのです。

揺れを家の中にできるだけ入れない「免震」構造

<免震構造>

前述の通り、「免震」は、地震による揺れ(地震力)をできるだけ家の中に入れない構造です。もし「家」が宙に浮いていたら、地震が起きても「家」は揺れないことは、誰でも想像できます。でも、それは現代の技術では不可能です。「家」はやはり地面の上に置かなければなりません。そこで「免震」なのです。

 

免震の原理については、目玉焼きを想像するとわかりやすいでしょう。フライパンを振っても卵の位置は大きく変わりませんよね。これは、フライパンの面に塗られたフッ素樹脂(テフロン)により卵がその上を滑っているからなのです。つまり、卵を「家」、フライパンを「地面」と考えると、「家」の下にフッ素樹脂で加工された鋼板があれば地震が起きたときに「家」はその上を滑り、振れが低減される、ということになります。これが「免震」構造の原理です。

 

いろいろな会社で免震住宅の実証試験が実施されていますが、大体、地面の揺れ(加速度)は70%程度減少し、30%にまで抑えられています。明確には言えないのですが、震度7が震度4程度に感じると言えます。もちろん、家具や電化製品が家中を飛び回るということは一切ありませんし、中にいる人も大きな恐怖は感じません。これこそが、最も「強い家」なのです。

もし、日本中の家が「免震」住宅になったなら

このように、最も「強い家」なのですが、欠点は、その免震にするための設備の費用が高いということです。もちろん、予算が潤沢な施主さんなら問題ないでしょうが、一般庶民的には高いと言わざるを得ません。そこで私たちが開発したのが、免震材“Noah System”です。これにより、従来の免震設備の約半分で免震住宅が実現可能になりました。

 

もし、日本中の「家」が免震住宅になったならば、この国で地震はそんなに恐ろしい自然現象ではなくなるのではないでしょうか。

 

「強い家」が守るのは、「家(ハウス)」ではなく、「家族(ホーム)」なのです。

 

 

谷山 惠一

株式会社ビーテクノシステム 代表取締役社長、技術士

 

日本大学理工学部交通工学科卒業後に石川島播磨重工業(現:株式会社IHI)入社。橋梁設計部配属。海外プロジェクト担当としてトルコ・イスタンブールの第1ボスポラス橋検査工事、第2ボスポラス橋建設工事等に参画。第1ボスポラス橋検査工事においては、弱冠28歳でプロジェクトマネジャーとして従事し、客先の高評価を得る。

その後、設計会社を設立し、海外での橋梁建設プロジェクトに参画。当時韓国最大の橋梁であった釜山の広安大橋建設工事などに、プロジェクトマネジャーとして従事。橋梁、建築物等の構造物設計・解析を専門とする。現在は橋梁設計のほか、独自の技術で一般住宅向け免震化工法「Noah System」を開発し、普及に努めている。元日本大学生産工学部非常勤講師。剣道五段。

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