仲良し家族でも相続トラブルは珍しくない
相続税を払う、払わないに関わらず、すべての人に起こるのが相続です。
「うちは親兄弟も仲が良いので、相続の揉めごととは無縁です。だいたい揉めるほどの財産もないし。」
そう思っている人は少なくありません。
しかし実際には、それまで仲の良かった家族が、相続をめぐるトラブルで絶縁状態になってしまうのは、よくある話なのです。
そもそも、相続が起こるまでにご家族でお金に関して、話し合う・分け合うということをしたことのない方が多いのではないでしょうか。
相続をめぐるトラブルは今までの仲の良さとは関係なく起こることを、まずは肝に銘じておきましょう。
トラブルになる原因は様々ありますが、そのうちの1つは、相続に関して誤った認識でいることです。本稿では、誤った認識により実際に起こった相続トラブルをいくつかご紹介します。
【1】「故人の介護を頑張った人」は報われて当然?
■家族が亡くなる前まで介護をしていた相続人と、そうではない相続人
このようなケースは長寿化した現在、非常に多いと思われます。
遺言により、介護をしてくれた相続人に多めの遺産を残すと書いてあれば話は別ですが、ほとんどの方は遺言を書いていません。
介護をしていた人の気持ちを考えれば、それまでの苦労を考えて多めに遺産をもらいたいと考えるのは当然のことです。
しかしながら、遺言のない場合、こうした介護にかかる負担分はほとんど考慮されることはありません。法律的には他の相続人と同様の取り分となってしまうのです。
ただし、寄与分といって、こうした特別なことをした相続人に対して、ある程度考慮される仕組みはあるにはあるのですが、条件が非常に厳しく認められるケースが少ないのです。
その上、厳しい条件をクリアして認められたとしても金額としてはわずかだと感じることが大半です。現行の法律では、寄与分はないものと考えたほうが良いのです。
また、長男の奥様が、旦那の両親の面倒を見るということも多いですが、そもそも奥様は相続人ではないため、どれだけ面倒を見ても奥様には遺産をもらう権利自体がなく、遺産分割の話し合いの場に参加することすらできません。
こうしたケースの対策としては、遺言を残すこと。そして、遺言作成時にすでに認知症だったのではないか?と他の相続人から遺言の無効を主張されないように、医師に“判断能力あり”と記載してもらった診断書も、遺言と一緒に保存しておくのが望ましいでしょう。
【1】では、介護した分は考慮されて当然だと誤った認識が原因で起きてしまいます。
【2】ただ「一言」だけ書いておけば防げた悲劇
■子どものいない夫婦の相続人は誰?
子どものいない夫婦の相続人は、もう一方のパートナーが必ず相続人になります。
そして、仮にご主人が先に亡くなったとしたら、奥様とご主人のご両親で遺産を分け合うようになります。しかし、ご主人が亡くなったときにはすでにご両親も亡くなっていることがほとんどです。
その場合、ご主人のご兄弟、ご兄弟がすでに亡くなっていれば、ご主人の甥や姪と相続することになります。
それ以上、下の世代にいくことはありませんが、甥や姪なら生存している可能性も高いため、こうしたケースはよくあります。
ただ、ご兄弟が多く、その子である甥や姪がたくさんいると、非常に相続手続きが煩雑になってしまいます。
奥様からすれば、会ったこともない甥や姪と相続を考えるというのはとてもストレスになるでしょう。ましてや、遺産の一部を取られてしまうと思うと…。
このケースは、亡くなったご主人が「自分の相続人は奥様だけだ」と誤った認識でいることが原因で起きます。遺留分といって、残された家族には最低限の遺産をもらう権利があるのですが、兄弟やその子である甥や姪には認められていない権利です。
ですので、遺言で“妻にすべての財産を相続させる”と一言書いておけば防げたトラブルです。
【3】祖父は長男に財産を相続させるつもりだったが…
■遺言で相続させようとしていた者が先に亡くなってしまうとどうなる?
たとえば、ずいぶんと長生きだったおじいちゃんが亡くなったとき、すでに子どものほうが先に亡くなっていたというケースは起こりえます。
このようなケースでは、その相続権を下の世代である孫が引き継ぐことになることはご存じの方も多いのではないでしょうか。これを代襲相続と言います。
しかし、遺言で指定した方が先に亡くなっていた場合、その記載された方の権利を下の世代が代襲相続することなく、無効となるのです。
もし孫が、おじいちゃんはちゃんと遺言を残しているから、ほとんど自分が相続できる…と考えていたとしたら、その思惑はもろくも崩れさります。
【3】では、代襲相続と遺言のルールを、混乱させている状態が原因で起こります。
ただし、遺言に予備的条項として、
「万が一、長男Aが遺言者よりも先に、もしくは同時に死亡した場合には当該財産は孫のBへ相続させる」
と記載しておけば有効となります。
このような細かなルールは一般の方にとっては非常に難しいので、遺言を作成する際には専門家に相談されることをオススメします。
まとめ:どんな家庭にも「備え」が必要
このように、相続に関する誤った知識や認識により、トラブルになることは珍しくありません。
他にも、日本人の遺産は不動産が多くを占め、何の対策もしておかなければ、兄弟間で不公平なく分けることが困難というのも、よくある相続トラブルです。
また、二次相続(おじいちゃんがすでに亡くなって、今回おばあちゃんの相続をすること)では、家族の砦となる親がいないために、揉めることが多くなります。
「お父さんの相続のときには、お母さんがいる手前、黙っていたけどもう我慢できない!!」となってしまうのです。
相続とは、死を考えるというネガティブなイメージのせいか、まだ先のことと考えてしまうせいか、実際に相続対策をされる方はそれほど多くはありません。
また、親からすれば「どの子もかけがえのない宝。財産は上手に分け合い、これからも協力し合い生きていきなさい。」と思う気持ちも理解はできます。
しかし、現実には血で血を洗うような相続争いが後を絶ちません。それも相続財産の多寡には関係なく起こっているのです。
ただ、相続対策の本質は、残された家族の幸せを願う気持ちではないでしょうか。その気持ちの実現が、相続対策という形で表現されるのだと思います。
相続の話は、いつまでも元気でいてほしいと願う子どもの立場からは言いにくいものです。
備えに早すぎるということはありません。大切なご家族が揉めることのないよう、元気なうちから準備をしておきましょう。
野村 雄太郎
山口市議会議員(政党 無所属)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
日本FP協会認定 CFP®︎