市民の命を守る消防の現場…定年延長で直面する課題
ときに命の危険にもさらされる消防士。組織は市町村単位で運営されているため、消防士になるためには公務員試験(消防職員採用試験)を突破することが必須条件です。採用後は、都道府県等に設置された消防学校に入学。半年~1年後に各消防署に配属されます。
そのキャリアは自治体の規模によって異なり、最大10段階の階級制度があります。必要な勤続年数に達していると昇進試験が受けられ、消防士から消防士長、消防司令、上級管理職へと昇進していきます。
総務省『地方公務員給与実態調査(2021年)』によると、消防職(一般職員)の平均給与は月40万0,344円。手取りにすると、30万~31万円程度といったところ。その勤務体制は大きく交替制勤務と毎日勤務に分かれ、交替制勤務は、消火活動にあたる職員が交替で24時間勤務にあたります。週平均勤務時間は38時間45分。毎日勤務は予防にかかわる職員が昼間の勤務にあたるもので、週38時間45分勤務で週休2日制が基本です。
年齢別に職員に分布をみていくと、地方公務員全体と比較しても、20~30代が比較的多いのが特徴です。
【年齢別「消防士と地方公務員」の職員数】
~19歳:2,557⼈(1.5%)/13,401⼈(0.5%)
20~29歳:43,196⼈(26.1%)/539,757⼈(19.5%)
30~39歳:46,964⼈(28.4%)/689,235⼈(24.9%)
40~49歳:41,225⼈(24.9%)/720,806⼈(26.1%)
50~59歳:27,443⼈(16.6%)/714,843⼈(25.9%)
60歳~:4,078⼈(2.5%)/86,052⼈(3.1%)
出所:消防庁「定年引上げに伴う消防本部の課題に関する研究会」資料より
※数値左:消防士、右:地方公務員全体、(かっこ)内は割合
一方、消防力の整備指針により算定される消防職員数に対して、現状は約78.3%の人員で対応しているという状況(2019年4月1日時点)。そこにきて、定年年齢の引き上げ。一般市民としても気になるのが、高齢期職員の増加による消防力低下です。高齢の消防官が火災現場に出動……そうなっても大丈夫なのか、という心配です。
報告書では、高齢でも現場に出られるだけの実力のある職員はいるとしつつも、体力や健康状態に不安のある高齢の職員が活動する場合、本人だけでなく周囲の職員の危険も増したり、交替制勤務は高齢の職員には身体的負担が大きいと懸念しています。そして「定年引上げが行われる中、消防力を維持・確保していくため、適切な定員管理を行い、毎年度の採用計画に反映させていく必要がある」と、新卒採用者数の平準化や定員の適宜見直しなどで対応するとしています。
定年延長に関しては、単に年齢を引き上げればいいというわけではなく、高齢の社員・職員にどのような職務を与えるか、待遇はどうするかなど、どの職場でも多かれ少なかれ、課題を抱えています。それは消防の現場でも同じであり、非常に大きな難問となっています。市民の命にも関わることですから、最良の方法で対応していってもらいたいものです。