日本特有の「メンバーシップ雇用」が人員整理を阻む
労働契約法第16条に19条、労働基準法、男女雇用機会均等法など、ほかにもさまざまな法律で、日本では解雇を規制しています。それでも世界では法規制がゆるいという評価なのです。
確かに日本は「米国のように大量解雇はしづらいケースが多い」といえます。その理由としてあげられるのが「雇用契約の内容」です。これが欧米と日本では大きく異なります。
日本でよくある「正社員/総合職」「正社員/一般職」での採用。総合職は、社内の中核業務を担い、その業務内容は多岐に渡ります。総合職で入社し、営業、経営、そしてマーケティング……さまざまな部署を経験して幹部候補を育てる……そんな会社も珍しくないでしょう。一般職は、総合職のサポート業務を担う立場。どちらも会社として特定の業務を任せはするものの、雇用形態としては業務を特定していません。
この雇用契約は、いわゆるメンバーシップ型雇用。つまり契約によって、その組織の一員=メンバーとしての地位を与えるというものです。業務を特定していないので、所属部署を整理することになったとき、他の部署への異動により、社員としての地位を維持します。一方で、業務を特定していないので、所属部所の廃止などは、解雇理由にならないということです。
欧米型の企業のように業務を特定するジョブ型雇用であれば、不採算部門をなくすことが決まれば、自ずとその部門で働く社員は解雇となります。必要な人員のみを採用できるので、余分な人件費を払わずを払わずに済む、というメリットもあります。
このように日本では「整理解雇をしにくい雇用契約」が一般的なため、「日本は解雇しにくい国」という認識が広がったというわけです。
経団連第5代会長中西宏明氏が「メンバーシップ型の雇用を見直すべき」と提言したことで注目が集まっているジョブ型雇用。専門職を育て、国際競争力をあげるという考えが主軸となっています。
欧米で大量かつ一斉解雇が話題になっても、それほど社会に混乱を与えないのは、そもそも専門性の高い人材なので、ほかの企業で働いたらいい、となるから。ジョブ型雇用が日本でも一般的になれば、自然と米国並みに「解雇しやすい国」になる下地はすでにあるといえます。