(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●有価証券残高の減少ペースは、QT開始の6月が計画比48.8%、7月は35.8%と低調な出だし。

●FRBはQT遅延の理由として、物価連動債の物価調整金や、MBS取引の市場慣行を挙げている。

●有価証券残高の減少は今後計画通りに進み、量の引き締めによる物価抑制効果が期待される。

有価証券残高の減少ペースは、QT開始の6月が計画比48.8%、7月は35.8%と低調な出だし

米連邦準備制度理事会(FRB)は、国債などの保有資産を減らす、いわゆる量的引き締め(QT)を2022年6月1日から開始しました(図表1)。

 

(注)データは2021年11月3日から2022年11月9日。 (出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表1]FRBの総資産残高 (注)データは2021年11月3日から2022年11月9日。
(出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

計画によると、縮小の上限額は、財務省証券と政府機関債、住宅ローン担保証券(MBS)の合計で、当初は月475億ドル、3ヵ月後には一気に倍増し、月950億ドルとなります。今回のレポートでは、QTが開始されてから5ヵ月経過後の進捗状況を検証します。

 

QT開始以降、毎月の実績をみていくと、最初の1ヵ月となった6月は、保有有価証券(財務省証券、政府機関債、MBSの合計)の残高が232億ドル減少しました(図表2)。

 

(注)四捨五入の関係で数字が合わない場合あり。 (出所)FRB、Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表2]FRBの保有有価証券残高の変化 (注)四捨五入の関係で数字が合わない場合あり。
(出所)FRB、Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

計画では縮小の上限額が月475億ドルでしたので、進捗率は48.8%と、低調なスタートとなりました。2ヵ月目の7月は、保有有価証券の残高は170億ドルの減少にとどまり、進捗率は35.8%に低下しました。

FRBはQT遅延の理由として、物価連動債の物価調整金や、MBS取引の市場慣行を挙げている

FRBは、保有有価証券残高の縮小が遅れている理由の1つに、インフレの影響を挙げています。物価が上昇すると、物価連動債の元本が増加しますが、この物価連動債は、財務省証券に含まれています。春先からの物価上昇の影響で、物価連動債の元本増加分が調整金としてFRBのバランスシートに計上され、これが財務省証券残高の減少を抑制する要因となっている模様です。

 

もう1つ、QT遅延の理由として挙げられたのが、MBS取引の市場慣行です。例えば、MBSを再投資した場合、元本の受け取りから、資金決済(FRBのバランスシート計上)まで、3ヵ月もの遅れが生じる可能性があるとFRBは指摘しています。そのため、QT開始から最初の数ヵ月は、QT以前に再投資したMBSの金額が遅れてバランスシートに計上され、MBS残高の増加要因になっていると考えられます。

有価証券残高の減少は今後計画通りに進み、量の引き締めによる物価抑制効果が期待される

その後、QT開始から3ヵ月目の8月は、保有有価証券の残高は324億ドル減少し、進捗率は68.2%に改善しました。9月以降は、縮小の上限額が月950億ドルに倍増しましたが、4ヵ月目の9月は保有有価証券の残高が722億ドルと大きく減少し、進捗率は76.0%となりました。また、5ヵ月目の10月は、786億ドル減少し、進捗率は82.7%まで上昇しています。

 

6月から10月までの5ヵ月間では、保有有価証券残高の減少額が2,234億ドル、進捗率は67.2%となっており、QTの低調なスタートが影響した様子がうかがえます。しかしながらこの先、保有有価証券の残高減少ペースは、計画に沿ったものとなり、進捗率は100%に近づいていくと思われます。市場の関心は利上げに集まりがちですが、量の引き締めも着実に進んでおり、インフレ抑制効果が期待されます。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『6月から開始された「米国の量的引き締め」はどの程度進んだか【ストラテジストが解説】』を参照)。

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

 

 

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