ボヤけた「気球」や「赤い屋根の家」を見るのはなぜ?
眼科に行くと、台に顎を乗せて「気球」または「赤い屋根の家」の画像を見る検査があります。「しっかり見てください」と言われますけれど、気球や家がボヤけて見えるので不安になる方もいるでしょう。あれは何をしているのでしょうか?
あの検査機器は「オートレフケラトメーター」といいます。屈折値といって、あなたの目が遠視なのか? 近視なのか? はたまた乱視があるのか? 角膜の状態はどうなのか?というのを調べています。目に光を入れてそれが反射で帰ってくる現象を利用すると、大体の近視や遠視がわかり、乱視の状態もわかるという仕組みです。
ただし、この検査には弱点があります。近視や遠視というのは、あなたが力を入れたり、ちょっとした加減で変わってしまうのです。特にお子さんの場合は、“目の調節力”といってピントを合わせる力が強く、大きく測定値がズレてしまいます。そのためお子さんの近視や遠視を正確に測る場合は、目のピント調節能力を弱くするアトロピンやネオシネジンという目薬を使うことがあります。
しかしこの目薬は、副作用としてしばらく見にくくなってしまいます。アトロピンなら2週間、ネオシネジンでも数日見にくくなるのです。大人が視力検査を受けるたびに2週間も見にくくなっていては生活が成り立ちません。そこで大人には、雲霧法(うんむほう)という方法を使います。
雲霧法とは、雲や霧の中にいるとボヤけて見えないようにボヤっとした状況を意図的に作ることで、ピントを合わせる力をやや弱くするという方法です。この方法をしているときは対象物がボヤっと見えます。この雲霧法こそ、気球や赤い屋根の家がボヤっと見える理由だったのです。軽い雲霧を行うことで近視や遠視を多少正確に測定できているのです。
では、次に受ける「空気が出る検査」は何なのでしょうか?
目に空気を吹きかけるのはなぜ?
空気が出る検査では眼圧を測っている、というのは聞いたことがあるかもしれません。しかし、他の検査は痛くもかゆくもないのに、この検査では目に空気を強く吹きかけるので不快に思うのではないでしょうか。なぜそんな不快なことをしなければいけないのでしょうか?
眼圧というのは目の圧力です。血圧と同じで目の基本的な検査となります。血圧というのは血管の硬さに関連しています。眼圧というのは目の硬さです。眼球がカチカチに硬いと眼圧が高く、眼球がふにゃふにゃに柔らかいと眼圧が低い、と言います。正常値は10~20となります。
眼圧が高いと「緑内障」という病気になりやすいです。緑内障は日本人の中途失明原因の第1位の疾患であり、発症していればできるだけ発見することが重要です。ですから非常に大切な検査なのです。また、経過を見ていく中で急に眼圧が上がる人もいるので定期的にチェックしています。
とはいえ、あの空気でどうやって目の硬さを見ているのか。実は、目に空気の圧力を当てると眼球がへこみます。そのわずかなへこみがどの程度なのかを見ています。同じ圧力でも、眼球が硬ければあまりへこまず、逆に、眼球が柔らかければ大きくへこみます。この差を見ることで眼球の硬さというのを測定しているのです。
上記はよく行われる検査ですが、一方で、視力検査の後やメガネを作るときに行う“赤や緑を答える検査”もあります。「赤と緑、どっちがはっきり見えますか?」と聞かれて、答えに迷った経験がある方もいるでしょう。そもそもあの赤と緑の検査は何なのか? 迷ったらどう答えればよいのか?を見ていきましょう。
「赤と緑、どっちがはっきり見えますか」は何の検査?
あの赤と緑の中にある〇を見る検査は「赤緑テスト」「レッドグリーンテスト」と言います。赤と緑では波長が違うため、焦点を結ぶ位置がズレます(=色収差〔いろしゅうさ〕)。この色収差を利用することで、かけているメガネの度数はあっているのか? それとも強いのか? 弱いのか?というのを知ることができるのです。
赤がはっきり見えたほうがいいのか、緑がはっきり見えたほうがいいのかというのは、あなたがもともと遠視気味か近視気味かなどにもよります。
まず、左右で見え方がはっきりと違うときはそれを伝えてください。もし非常に迷う状況であれば「どっちも同じぐらい」と答えていただければと思います。「どちらを答えるべき」という正解があるわけではないので、赤と緑の微妙な見え方の違いをしっかり見ようとしなければいけないわけではないのです。あくまで、「せっかくメガネを作って視力は確かに1.0になったけれども、頭が痛くなる」などの不調を防ぐための検査となります。
視力検査で「見えないフリ」をするとどうなる?
さて、視力検査で見えているのに「見えていない」と答えたらどうなるのでしょうか? バレてしまうのでしょうか?
視力検査というのは非常に重要なので、ウソをつくのはおすすめしません。確かに視力検査という単一の検査だけでいうと、ウソを答えて視力の数値を変えることはできます。けれども、もし「あなたの目の所見には異常がない、それなのに視力だけ悪い」となると、医者としては何か他に原因があるはずだと考えます。
すると、いろいろな検査をした挙句に理由不明となって、お互いにとっていいことがありません。ですので正直に答えていただければと思います。
たまに、障害者手帳を取りたいからとか、お子さんだとメガネをかけてみたいからといった理由でウソをつくケースがあります。けれども、視力のような“自覚的な検査”ならウソをつけても、レフラクトメーターのような“他覚的な検査”はウソがつけません。すると矛盾が生じるだけになります。
平松 類
眼科専門医・医学博士
二本松眼科病院 副院長