(※写真はイメージです/PIXTA)

長寿サプリとして「NMN」が話題となっている中、長寿研究の最前線では、90年代に日本が発見した物質「5デアザフラビン(TND1128)」に注目が集まっています。5デアザフラビン(TND1128)にはどのような効果があるのか。本稿では「ミトコンドリア活性化」という機能に着目して見ていきましょう。銀座アイグラッドクリニック院長・乾雅人医師が、実際に投与した例を紹介します。

NMNにはない、5デアザフラビンの“効能”

今回は、5デアザフラビン投与の実臨床例紹介の第2回目となります(初回は関連記事『長寿研究で注目の“5デアザフラビン”…「I型糖尿病の69歳・男性」に投与した結果【医師が解説】』をご参照)。

 

5デアザフラビンはNMNの上位互換とされ、主機能も同様と考えられています。一つはミトコンドリアの活性化であり、この効能がNMNの数十倍であるとして国際特許承認済です。もう一つが、サーチュイン遺伝子の活性化であり、NMNの数倍の活性が確認されています。本稿では、“特別に強力なミトコンドリア活性”について焦点を絞って、実臨床例とともに解説します。

ミトコンドリア活性化による「効果」は実感しやすい

ミトコンドリアは生体エネルギーの95%を生成する細胞内小器官です。車で言うならエンジン、機械で言うならモーター、産業で言うなら発電所に相当します。予算やマンパワー、エネルギーなど、上限を超えて何かを行うことはできません。まずは最大出力を上げる、確保することが重要です。「ミトコンドリアの活性化とは、生きていくためのエネルギー源の確保に他ならない」と説明すれば、その重要性が伝わるでしょう。

 

ミトコンドリアが“特別に強力に”活性化することで、Ca2+イオンを細胞外に排出する効果が極めて高いのです。実臨床では、Ca2+イオンブロッカーと呼ばれる、心臓の不整脈の薬や、平滑筋収縮を抑制する類の薬などと類似の効果が得られる可能性があります。すなわち、喘息発作や、狭心症発作などに対しても。

 

一般に、サーチュイン遺伝子の活性化による効果の体感は乏しいと考えられます。一方でミトコンドリアの活性化については、数日程度で確かな体感が得られる可能性があります。実臨床で、1ヵ月以内に体感を伴う場合、慢性炎症の鎮静化によるもの以外は、ミトコンドリアの活性化によるものと考えるのが自然です。

 

本稿では、アンチエイジング目的に投与した結果、想定外の思わぬ好ましい結果が伴った事例を紹介します。いずれも、目的外使用の結果、思わぬ発見があった事例です。恐らく、NMNの投与ではこのような事例は限定的なのではないでしょうか。現時点で私は、ミトコンドリア活性の“強度”(NMNの数十倍強力)が結果の差だと考えています。

アンチエイジング目的で「想定外の福音」を得た事例

■投与1ヵ月で狭心症発作がなくなった

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【症例①:51歳・女性 冠攣縮性(かんれんしゅくせい)狭心症】

父方親族に心臓病突然死が多い家系。20歳ごろから、自分自身も突然の意識消失を繰り返す。24時間心電図検査など含め、複数の総合病院で精査を繰り返すも、毎回、特段の異常を認めず。48歳の際、心臓カテーテル検査で誘発試験(冠動脈を収縮させる薬剤を投与)を実施し、冠攣縮性狭心症の診断(狭心症=心臓に流れ込む動脈が痙攣して、末梢側に血流が途絶する発作のこと。永続的に血流が途絶すると、心筋梗塞に至る)。ガイドラインに則った治療を行うも、かえって症状の増悪を認め、自己判断で通院を途絶していた。

 

(※冠動脈とは、心臓への血流が流れ込む動脈のこと。冠動脈が収縮して血流が途絶すると、末梢組織に血流が不足し、胸痛や息苦しさなどの症状が出る。)

 

■仮診断*:なし(アンチエイジング目的での投与。処方時、冠攣縮性狭心症は既往歴と判断)

(*診断は、治療が奏功した段階で初めて証明され、確定診断となります。臨床医による予測を「仮診断」といい、仮診断の段階で行う治療行為を“診断的治療”と呼びます。)

 

■処方:5デアザフラビン(TND1128)(100mg)1C1X朝 投与

 

投与後1ヵ月で、それまで頻回に起こっていた狭心症発作がなくなったことを実感。夜間も熟睡でき、QOLが著しく改善した。以降も発作なく過ごし、突然死の恐怖が和らいで日常を過ごしている。アンチエイジング効果も認め、肌の調子も良いとのこと。

 

⇒確定診断:冠攣縮性狭心症

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5デアザフラビン(TND1128)投与により、ミトコンドリア活性化によるCa2+イオンが“特別に強力に”細胞外に排出される効能が得られました。細胞内へのCa2+イオン流入を遮断するCa2+ブロッカー(狭心症治療ガイドラインにも採用あり)類似の効果が得られた可能性が高いです。冠動脈壁を構成する平滑筋の収縮が抑制されたと考えられます。あるいは、神経の安定性向上により自律神経の乱れが整った結果、発作がなくなった可能性もあります。

 

■投与1ヵ月で喘息発作が消失し、不眠症も改善

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【症例②:60歳・女性 喘息】

幼少時より喘息発作があった。周囲の環境の変化に伴うストレス過多で、54歳時には特別に喘息発作が増悪し、「喘息予防・管理ガイドライン2021」による喘息重症度分類では重症持続型であった。保険診療での加療で、症状の緩和を認めるも、夜間に目覚めたり、日中の活動に制限があったり、症状の消失を認めてはいなかった。

 

■仮診断:なし(アンチエイジング目的での投与。処方時、喘息は既往歴と判断)

■処方:5デアザフラビン(TND1128)(100mg)1C1X朝 投与

 

投与後1ヵ月過ぎて、喘息発作が消失したことを実感。従来の喘息治療薬では、発作をコントロールできていても、気道に「ヒュー、ヒュー」という音の自覚していた。その音すら消失したことに本人も驚いている。喘息による日常生活の制限がなく過ごせている。結果、不眠症も改善し、服薬中断。一切の薬を内服することなく過ごし、QOLの著しい改善を認めている。

 

⇒確定診断:喘息

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5デアザフラビン(TND1128)投与により、ミトコンドリア活性化によるCa2+イオンが“特別に強力に”細胞外に排出される効能が得られました。気道周囲の平滑筋の収縮抑制効果によると判断します。細胞内へのCa2+イオン流入を遮断するCa2+ブロッカー(狭心症治療ガイドラインにも採用あり)類似の効果が得られた可能性が高いです。不眠症の改善は、喘息発作による日常的な不安の解消が一助となったと考えられます。

臨床現場こそが人類社会の最前線

いかがでしょうか。上記はあくまでも事例に過ぎません。一般の方々の感覚では“事実”と声高に叫びたいところでしょうが、医師の感覚では再現性、検証可能性に欠けます。このような事例(Case)から仮説が生まれ、科学(Science)が構築されます。そして、それを検証して初めて、根拠(Evidence)となります。医師が語る“事実”は根拠(Evidence)のレベルであるべきです。

 

医療業界では昨今、根拠(Evidence)の重要性が声高に叫ばれています。でも、その奴隷になってはいけない。現在の根拠(Evidence)はすべて、事例(Case)に端を発するものだからです。

 

5デアザフラビン処方による思わぬ効用、福音。現在はまだまだ事例(Case)に過ぎませんが、数十年後の根拠(Evidence)になることを信じて。臨床現場こそが、人類社会の最前線なのです。患者の方に本日も伝えます。

 

『社会を良くするのは私たちです』。

 

『人類は老化という病を克服する』。

 

 

乾 雅人

医療法人社団 創雅会 理事長

銀座アイグラッドクリニック 院長