「労働分配率」の低下は、ほかの先進国でも同じだが…
最高益と声高らかにいいながらも、賃上げには慎重な日本企業。ただ労働分配率、という観点でいえば、多くの先進国で低下傾向にあるといいます(図表3)。
その要因としてさまざまな説がいわれていますが、そのひとつが社会の成熟によって労働分配率は低下していくというもの。もともと人間が行っていたことをITやロボットなどが代替することで、人件費は低下、労働分配率も低下していく、というもの。
確かに、欧米では先端技術を取り入れ、労働生産性も賃金も上昇という正のスパイラスにあり、相対的に人件費の圧縮に成功しています。一方、日本企業はどうでしょう。「2025年の壁」と経済産業省が警鐘を鳴らし、DX推進に躍起になっていることを考えると、経済の成熟による労働分配率の低下という、欧米と同じベクトルでは語ることはできず、単に内部留保の増加だけと考えるのが妥当でしょうか。
なぜ日本企業で内部留保が拡大するのか……この要因についてもさまざまにいわれていますが、少子高齢化、人口減少と、経済成長への期待感が失われることで、設備投資への意欲を失ったから、となんとも絶望的な理由がささやかれています。一方でこのコロナ禍、未曽有の危機にもかかわらず、倒産社数が少なく、雇用を守ることができたのは、政府の支援はもちろんのこと、企業の内部留保のおかげという側面もありそうです。
では世間でいわれている通り、利益の分、賃金をあげるというのが現実的かといえば、そうはいかないのが日本企業の難しいところ。たとえば、いま日本企業にとって急務であるDX推進。DXにより労働生産性があがり、その分、賃金に反映させられるかといえば、そう簡単なことではありません。確かに生産性向上の分、「人を減らす」ということができれば、その分、賃金には反映できるでしょう。
しかし人員調整が難しいのが日本。さらにいま正社員率をあげようと躍起になっている流れもあり、ますます「人の調整で人件費を抑える」という試みはしにくい状況にあります。雇用安定と賃金上昇。現状、経営者としては前者をとるしかない状況ですが、少子高齢化、人口減と先行きが不透明な日本では、その両立が必須。経営者には難しい舵取りが求められているのです。