眠れない現代人が激増している理由
渋谷ハチ公前で石を投げたら、眠れない人にあたる確率は以前4人に1人ぐらいであったが、最近はもっとかもしれない。不眠で通ってくるIT系の会社の社員Dさんに聞いたところ、睡眠薬をのんでいる社員は社長を含め二人に一人ぐらいだという。少し多すぎやしないだろうか。
眠れない人が激増している。ストレス社会だから仕方がない、眠剤でも貰おうかと、病院に行くと、以前は、案外あっさりと処方してくれた。しかし最近は、以前ほど簡単ではない。依存性があり、乱用のおそれもある眠剤が多い。特に飲みやすい眠剤ほどやめにくい。そこで、処方に制限が加えられるようになったが、そのおかげで、短いスパンで病院通いを延々としなくてはならなくなった。
なぜ眠れない人が激増しているのか。
情報量が人間の脳の処理能力を超えているからであるとおもえるが、そもそも、昨今、情報が人間の体内時計を全く無視して届けられることも原因の一つと言えよう。地球の裏側と夜中会議をしなくてはならないとか、テレビも面白いのは夜遅く放映される傾向があるし、子供たちもベットの上でパジャマ姿でスマホでやり取りしたり、もちろん夜の仕事はますます増えている。
持続する緊張は「有毒」である
オンザアラート(on the alert)、警戒態勢を長時間続けることが脳の機能を壊します。
寝るホルモンと覚醒ホルモンも体内時計に従って分泌されるが、夜の情報のやり取りが増えれば、覚醒ホルモンが夜に分泌されるようにもなる。
これに追い打ちをかけるのが、ランダムな情報の到来である。決まった時間に決まった情報が届けられるなら、ある程度は対応可能であるが、いつ情報がやってくるかわからないとなると、オンザアラートがずっと続くことになる。これが大きなストレス因になる。
一回の強いストレスよりも、弱いがいつやってくるかわからないストレスへの対応は緊張を持続させ、脳を疲弊させる。
運送会社でトラックの配車をやっている働き者の女性Bさんが、眠れないといってやってくる。
私の知る限り、トラックの配車係はかなりの気力のいる仕事である。荒くれた運転手に、行き先や、トラックに乗る場所を指示しなくてはならない。しかし、近場なら行くが遠くは嫌だ、突然休んだ運転手の代わりを、なぜ自分ばかりやらねばならないのか。
こうした不満をなだめたり、高速道路を使いたいといった要求をはねのけたり、いろいろ運転手の不満をまず受けねばならない。それでも学生時代はソフトボールのキャッチャーで、もう少しでオリンピック代表になれたかもしれない、体育会系の女性である。荒くれたトラックの運転手たちを、あしらうのがうまい。そこを買われて配車係になった。
なぜ配車係が眠れなくなったのか
しかし、その彼女がどうにも眠れなくなったのである。かつて眠れないなどといったことが一度でもあっただろうか。
運転手からの電話は夜中でも休みの日でもかかってくる。
運転手の朝は、午前3時だったり4時だったり。それでも決まってその時間に電話があるのならよいが、いつかかってくるかわからないとなると、一日の内、リラックスできる時間が無くなる。いつもどこか緊張しているから、睡眠も浅くなる。これが、つづくと、ストレス耐性が下がり、より些細なことにも過敏となる。
このことは動物実験するとすぐに証明される。いつ襲われるかわからないというストレスを動物に与え続けると、たいしたストレスでもなくても、21日目に吐血して死ぬという有名な実験がある。いつ襲ってくるかわからないゲリラを相手にするためには、十倍の兵力が必要というのが、軍隊での常識である。
ずっと緊張を続けると、脳の危機センサーである偏桃体が肥大し、情報処理をする海馬が委縮する。これにより、重要でもない情報にも過敏となり、睡眠が阻害される。