(※写真はイメージです/PIXTA)

「老化は治る」。今、医学の常識が一転しつつあります。WHOが2019年に採択した「IDC-11(国際疾病分類)」でも、明確に“老化”の概念が盛り込まれました。老化とは万病に共通する驚異的なリスク因子であり、もはや、人類が克服すべき治療対象の疾患と定められているのです。銀座アイグラッドクリニック院長・乾雅人医師が、「遺伝子レベルで見る“老化の本質”」を解説します。

サーチュイン遺伝子と話題の長寿サプリ「NMN」

昨今、長寿サプリとしてNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)が話題です。オバマ政権時代、NASAにまつわる国家プロジェクトとして始動しました。宇宙空間ではオゾン層に守られた地表とは異なり、宇宙光線がダイレクトに宇宙飛行士のDNAを損傷します。宇宙飛行士の健康を守るために、DNAを修復する物質を模索したわけです。

 

そうして、NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)が注目されます。生体内に自然に存在する物質であり、サーチュイン遺伝子を活性化させる性質があります。専門的には『ヒストン脱アセチル化』という行為を介して、DNAを、ゲノムを瞬時にクリーニングする作用があります。こうして、ゲノムに付着(修飾)したアクセサリーを外すことで、ゲノムをもともとの状態、すなわち、個体が若い状態にリセットしたり、修復したりする作用があります。

 

ヒトの個体は、細胞一つ一つからできています。その細胞の設計図が遺伝子です。遺伝子の状態、ゲノムの状態が10年前の状態にリセットされたならば。当然、そこから作り出される個体の状態も10年前の状態に戻るのでは?というのは十分根拠がある話です。これこそが、遺伝子(ゲノム)レベルでの若返りと言われる内容です。

 

ヒトは40歳を過ぎると、生体内のNMN/NAD+の絶対量が減少します。ブロッコリーや枝豆などでの食品からの摂取は可能ですが、十分量を補うのは非現実的です。結果、NMNサプリメントが流行することになります。そうして、サーチュイン遺伝子を活性化させ、人のエネルギーの95%を生成するミトコンドリアを活性化させ、老化を治療し、老年症候群を予防する、という取り組みが現実になされているのです。

“老化の本質”は深すぎる

このサーチュイン遺伝子の発見は、実は遺伝学が切り拓いたものです。詳細は割愛しますが、酵母の遺伝子、Sir 2(Silent Information Regulator 2)を活性化すると、寿命が30%伸びたという事象に由来します。では、このSir 2は哺乳類ならば、ヒトならば、何に相当するのだろうか。こうして、サーチュイン遺伝子(Sirtuin)の1~7が同定されました。

 

遺伝学以外の、生化学、分子生物学、細胞生物学などは細分化した詳細を丹念に検証するのに対し、遺伝学はシンプルに寿命が延びたかどうかだけに注目する学問です。ざっくりと大局観を掴むことに優れており、結果、サーチュイン遺伝子の発見に繋がりました。それでも、遺伝学も万能ではありません。酵母で、線虫で、ショウジョウバエで、ラットで正しいことが、ヒトでも正しいとは限らない。やはり、一つの切り口、一つの学問だけで結論を出すには、あまりに“老化の本質”は深すぎるのです。

 

以上、本稿では遺伝子レベルで老化を捉えました。前稿の『細胞レベルで見る“老化の本質”』と併せて、読者の方の理解が深まると幸いです。『人類は老化という病を克服する』。

 

 

乾 雅人

医療法人社団 創雅会 理事長

銀座アイグラッドクリニック 院長