(※写真はイメージです/PIXTA)

「老化は治る」。今、医学の常識が一転しつつあります。WHOが2019年に採択した「IDC-11(国際疾病分類)」でも、明確に“老化”の概念が盛り込まれました。老化とは万病に共通する驚異的なリスク因子であり、もはや、人類が克服すべき治療対象の疾患と定められているのです。銀座アイグラッドクリニック院長・乾雅人医師が、「遺伝子レベルで見る“老化の本質”」を解説します。

「エピゲ年齢の老化」はどうやって始まるのか?

■ゲノムとエピゲノムの違い

ゲノム、染色体、遺伝子、DNA。少し専門的ですね。用語を整理してみましょう。

 

歴史書に例えてみましょう。XX大全、XX全集という、(一つの個体が持つ)すべての遺伝情報の総体が、ゲノム。これが23冊構成だとしたら、1冊1冊に対応するのが、染色体(ヒトの染色体は23対)。そして、その染色体という本の中に記載されたすべての文字が、DNA。うち、意味のある情報を持った部分が、遺伝子。このようなイメージです。

 

この遺伝子は細胞の設計図とでもいうべきもので、遺伝子をコピー機のように“読み取って”(=専門用語では“転写・翻訳”と呼ばれる)、タンパク質が生成され、細胞や細胞外基質などが作られます。遺伝子レベルで“老化の本質”を捉える試みは、細胞レベルよりも一段階、詳細に踏み込んだ行為なのです。

 

唐突ですが、羊のドリーをご存じでしょうか? 1996年に世界初の哺乳類体細胞クローンとして誕生した羊です。クローンとは定義上、同一の遺伝情報(ゲノム)を持つ個体群を意味します。読者の方が20歳のときに作るクローンと、80歳のときに作るクローンは、実は同一です。何しろゲノムが同一なのですから。でも、そのクローンの元である20歳の状態と80歳の状態は大きく異なります。老化によって変わっているのはゲノムではなく、何なのでしょうか? この答えが、エピゲノムになります。エピゲノムの状態こそが、老化の進行を反映したものなのです。エピジェネティック・クロック(epigenetic clock)という物差しの根拠です。

 

一言で言えば、エピゲノムとは、ゲノム(DNA全体)に付加されたアクセサリーみたいなものと思ってください。ゲノムという先天的なものに対して、後天的に付加される、スイッチのオンオフの情報の総体がエピゲノムです。

 

■ゲノムに後天的に蓄積したエラー情報、汚れ、アクセサリーが老化を招く

私たちは生きているだけで、紫外線を浴び、タバコやアルコール、食品添加物の影響などで、ゲノム(DNA全体)は汚れていきます。専門的には、メチル修飾、アセチル修飾などと言われます。こうして、日常生活の中で、ゲノム(DNA全体)に異常な情報(汚れ)が蓄積していくと、どこか一線を超えた段階で、大きな異常に繋がります。そうです、老化の始まりです。遺伝子レベルで見た“老化の本質”の正体です。

 

この遺伝子レベルの“老化”、ゲノムに後天的に蓄積したエラー情報、汚れ、アクセサリーを除去するには、どうしたらよいのでしょうか? エピジェネティック・クロック(epigenetic clock)を巻き戻すには、どうすればよいのでしょうか? この答えが、サーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)の活性化になります。

次ページ「エピゲ年齢」を巻き戻すには?