住宅購入の際、将来のさまざまなリスクをしっかり想定することは当然です。しかし、リスクを家族間だけの相談で想定しきることは非常に難しいと、長岡FP事務所代表の長岡理知氏はいいます。どのようなことか? 夫の実家の敷地内に家を建てた夫婦の事例をもとに詳しく解説します。
夫の実家の敷地内に家を建てた夫婦…避けられたはずの「家を失うリスク」【住宅専門FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

両親想いの優しい夫、実家の敷地内に家を建てたが…

「この家から出て行って欲しい」

 

紗香さん(仮名)が夫の母親から告げられたのは、夫の死後、1ヵ月が過ぎた頃。

 

紗香さんが夫と結婚したのは35歳のとき。当時3人の子供を育てるシングルマザーでした。元夫からのDVが原因で離婚し、縁もゆかりもない土地に引っ越して会社員として働いていました。その頃出会ったのが同じ年の勇人さん(仮名)。勇人さんはとても優しく、ご両親を大切にしているところに好感を持ったのです。

 

結婚を決めたときに、勇人さんのお父さんがこう言いました。


「賃貸マンションを借りるくらいなら、いっそのこと家を建てたらどうか。ここの敷地のなかに建てたら土地代が浮くし、いいじゃないか」

 

つまり、夫である勇人さんの実家の敷地のなかに新築するということです。土地は父親の名義のまま使用貸借契約を結び、無償で貸すとのこと。この申し出に勇人さんは喜んでいる様子。紗香さんは一抹の不安を感じたものの、新築の家に住めることに期待のほうが勝ったと言います。建物は延床面積28坪。諸経費込みで2,000万円のローコスト住宅でした。

 

1年後には新築の家も引き渡され、家族5人の生活が始まりました。敷地内に住む勇人さんの両親は紗香さんの連れ子のことを可愛がってくれて、子供達も早くに懐きました。

 

しかしそんな幸せな日々も長くは続かず......結婚から3年が経ったある日、勇人さんは職場で倒れてしまいます。脳卒中でした。営業マンだった勇人さんは毎日のように接待があり、お酒の量が多く疲れもたまっていたのかもしれません。紗香さんはせっかくつかんだ幸せがまた逃げてしまったと悲しみました。