住宅購入の際、将来のさまざまなリスクをしっかり想定することは当然です。しかし、リスクを家族間だけの相談で想定しきることは非常に難しいと、長岡FP事務所代表の長岡理知氏はいいます。どのようなことか? 夫の実家の敷地内に家を建てた夫婦の事例をもとに詳しく解説します。
夫の実家の敷地内に家を建てた夫婦…避けられたはずの「家を失うリスク」【住宅専門FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

建物・土地に対する価値観は世代間で大きく異なる

紗香さんと夫の勇人さんが勘違いしていたことがあります。


それは、勇人さんのお父さんは「いい人だから自宅の敷地内を提供してくれた」というわけではないということです。義父世代には家父長的家制度の価値観がまだ残っていたのです。これは農家でかつて見られたような、父が一家のなかで1番偉く、長男とその妻は父の元で生活し家業を手伝うという古い家族制度です。


「長男だから親と同居しなければならない」という価値観をこの現代でも持っている若い人が稀にいますが、家父長的家制度の影響が残っている家庭で育ったのかもしれません。この価値観での家制度では、建物と土地は絶対的な財産とみなされます。血のつながりがある直系の子供が継承し守っていくべきもので、他人の血筋に渡すわけにいかないのです。このような過去の家制度の影響は地方によっては依然として強いものがあります。

住宅購入時、なぜ専門家への相談が必要なのか

家を買うとき、親との同居や実家の敷地内に建てることは避けるべきです。特に再婚で連れ子がいる場合です。いくら両親が優しい人でも、相続問題では法定相続人たちの個人的な感情や思惑に振り回されて、立場の弱い人が理不尽な思いをします。

 

もしやむを得ず同居する場合には、親よりも先に夫が死亡するリスクを十分に考慮してライフプランを練っておきましょう。

 

紗香さんのケースでは、勇人さんは必要十分な死亡保険金を用意しておくべきでした。勇人さん亡き後は、建物を解体して土地を義父に返還し、別の場所に新しく自宅を購入することが理想です。法的にはその必要性は無いとしても、遺恨を残すことなく義両親との関係性を清算できます。そのための死亡保険を、家計に無理なく用意しておけば今回のようなことにも対処できました。

 

「団体信用生命保険があるから死亡時は住宅ローンが無くなる=死亡保険を安く見直せる」とアドバイスする保険営業パーソンが散見されますが、絶対にそのようなことはありません。紗香さんのようなケースでは住宅ローンが無くなっても、特にそのあとの人生にはプラスになりませんでした。

 

家を買うときには、あらゆるリスクを指摘して、リスク対策を提案してくれる住宅資金の専門家が絶対に必要です。

 

 

長岡理知

長岡FP事務所

代表