購入前に熟慮を重ねたつもりでも、50人に1人は住宅ローン破産をしてしまうといわれています。世帯年収1,200万円の公務員夫婦の事例をもとに長岡FP事務所代表の長岡理知氏が本当に計画的な住宅ローンの考え方を解説します。
世帯年収1,200万円「勝ち組」夫婦、住宅ローン破綻の未来がみえた理由【家計のプロが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

賃貸の家賃と変わらない額の住宅ローンを借りたはずが…

「貯蓄がゼロで車検代にも事欠く状態です。僕の年収で家を買うのは無謀だったのでしょうか……」

 

弊社に相談にいらしたAさんは、切羽詰まった様子でした。自宅を購入してから急にお金に苦しくなったと言うのです。

 

青森県在住のAさんは35歳。同じ年の奥様と2人のお子様がいます。ご夫婦ともに公立の総合病院に勤める看護師。年収はそれぞれ600万円以上。世帯年収は1,200万円です。厚生労働省が行った令和3年賃金基本統計調査によると青森県のAさんと同年代の平均年収は約357万円であることから、ご夫婦どちらも高年収であるといえます。

 

Aさんは3年前に新築住宅を購入。3,700万円、返済期間40年の住宅ローンを借りました。毎月の返済額はそれまで住んでいた賃貸マンションの家賃と同程度。住宅を買っても支出はほとんど変わらないので安心のはずでしたが……。Aさんは以前と比べて生活が苦しくなっていると嘆きます。

 

「他の家庭ではどうやってやりくりしているのでしょうか。もっと収入が高いのでしょうか?」

 

むしろAさんご家族は高収入ですよと私は教えるのですが、納得できない様子。しかも住宅営業マンから紹介されたファイナンシャルプランナーに相談していたのです。

 

「そのFPさんは、Aさんの家計には将来的に問題がないと判断したのですか?」

 

「そうです。毎月の家計に余裕があるので生命保険で貯蓄をしましょうと言われました。その生命保険のおかげで貯蓄が出来ているはずなのですが、いま使えるお金がないのです」

 

Aさんの家計を分析していくと、大きな問題が隠れていることに気づきました。このままでは40代後半に破綻してしまうことも数字ではっきりとみえます。それを告げるとAさんは驚きのあまり無言になってしまいました。

ファイナンシャルプランナーも見落とした、家計に潜む大きな問題点

なぜ家計が苦しくなったのでしょうか。それまでの家賃と同程度の住宅ローン返済額であるにも関わらず、です。

 

Aさんに1ヵ月分のレシートをすべて保管していただき、収支を記録してみました。そこで判明したのは、生命保険の掛け金の異常な高さです。住宅メーカーでのFP相談会で加入した外貨建て終身保険が問題のひとつでした。


これは為替レートで毎月の掛け金が変動する保険です。毎月約350ドルの掛け金は、1ドル138円とすると48,300円ということです。その翌月に1ドル140円になると、掛け金は49,000円に上昇します。Aさんが加入した当初は1ドル110円程度でしたので38,500円ほどの掛け金として認識していたようです。この3年で掛け金が1万円上昇しています。今後さらなる円高が進めば、もっと掛け金が増えるということです。

 

AさんはFPに老後資金を3,500万円貯める必要性を説かれたそうです。この生命保険をご夫婦2人で加入しているので、毎月約10万円もの支払いをしています。これを65歳まで払い続けることが出来、為替レートが1ドル140円のままであれば2人で4,000万円を超える解約返戻金を受け取ることができるでしょう。しかし私からはっきりと申し上げました。

 

「家計の専門家から見て、この生命保険を払い続けるのは不可能です」

 

AさんのFPは生命保険会社の営業パーソンだったようで、緻密な家計分析は専門外だったようです。残念ながらこの生命保険契約はAさんの家計にマッチしていません。