(※写真はイメージです/PIXTA)

「クリニック経営戦国時代」ともいわれる昨今。やっとの思いで開業を実現させても、競争激化にコロナ禍が追い打ちをかけ、廃業に追い込まれる医療機関が増えています。今回は、高座渋谷つばさクリニック院長の武井智昭先生が廃業の原因を分析しながら、「開業すれば儲かる」という甘い誘惑に乗ってしまった医師Aの、悲惨すぎる末路を紹介します。

駅前徒歩2分…好立地に開業した医師A

さて、ここでは、「駅前徒歩2分」という良好な立地条件で開院した、とあるドクターのいばらの道を紹介していきます。

 

10年前、「駅前テナント2階」という絶好の土地に開業したドクターA。開業3ヵ月までは、1日20~30名程度の受診患者さんがおりました。ところが、その後まったくといっていいほど再来(リピーター)が来院せず、次第に初診患者も減少の一途に……。いったいどうしてでしょうか。

 

医療機関を経営するうえでは、まずは受診動機をしっかりと把握し、患者とその家族に「また来てほしい」と思える診療内容やアプローチ、接遇を行うことが重要です。しかし、ドクターAの医院には「医師が傲慢でなにを相談しても無駄。2度と行きたくない」という口コミが地域に広まっていました。

 

その地域に住む有名大学病院教授の家族も受診したそうですが、「この医師は専門性・人間性がない」という口コミを残し、その内容が患者数減少をさらに加速させました。

 

このような事態になった主たる原因は、ドクターの話し方にあります。

 

Aは診療の際患者と目を合わせず笑顔はなく、患者の提案や意見にもまったくといっていいほど耳を傾けませんでした。「不機嫌・独りよがり・押しつけ」という“敬遠三拍子”が揃った診療を継続し「話しかけられたくない」オーラが全開。患者さんとのコミュニケーションはもちろん看護師・医療事務との関係も悪く、経営は赤字一直線となったのです。

 

開院2年で赤字は年間2,000万円を超え、さらに運悪く、近隣に評判のいい医療機関が複数開院したため、経営は崖っぷちとなりました。

自己破産の危機…休日返上で非常勤勤務へ

「このままでは自己破産……」と金銭面に危機感をおぼえたドクターAは、アルバイト(非常勤勤務)を開始。その驚愕のスケジュールですが、なんとAは休診日の水曜日は終日、土曜の夜間当直と日曜日の日中・夜間当直すべてにシフトを組んだのです。

 

この非常勤勤務の収入ですが、日中は1回10万円、土曜日と日曜日の当直は12万円の報酬があります。そのため、1ヵ月では10万円×2(回/週)×4(週/月)(水・日の日中、週2回)+12万円×2(回/週)×4(週/月)(土・日の当直、週2回)=176万円の給与所得となります。

 

このころのクリニック収益というと、平均来院患者数が1日12名、週4.5日(月18日稼働)、診療単価6,000円とすると、1ヵ月あたり6,000×12×4.5=129万円。

 

出費としては、家賃と光熱費で月70万円、スタッフの給与や社会保障で月120万円、医薬品等消耗品維持で50万円、そのほか経費として60万円と、合計月300万円の医業出費があるため、つまりおおよそ月170万円の赤字です。

 

非常勤勤務で得た前述の176万円が赤字額とほぼ同額ですから、人件費やクリニック維持のために、アルバイトに専念していたことがうかがえます。

 

自分の生活費に使える額は10万円もないため、昼はカップ麺、夜はスーパーの5割引惣菜とやけ酒用のアルコールで飢えをしのぎました。

 

週7日勤務(月8回の当直含む)を維持しているうちはよいですが、連日の勤務のストレスはボディーブローのように蓄積されていきます。アルバイト先では、自分のクリニックの4倍の患者に対応をしており、ストレスはピークに。患者や家族、勤務先スタッフにまで怒鳴り、さらには院長に文句を言うようになり、ついには肩を叩かれました。

 

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