(※写真はイメージです/PIXTA)

変形性股関節症の治療法として、大きな注目を集めている「人工股関節置換術」。この治療は股関節のトラブルに悩む人たちにとって待望の解決法だと、世田谷人工関節・脊椎クリニックの塗山正宏先生はいいます。社会復帰もスムーズな注目の治療法について、塗山先生が詳しく解説します。

脱臼リスクが少なく、筋肉も切らない「前方進入法」

そこで誕生したのが、前方や前外側からの進入法です。この前方進入法と前外側進入法は、ひとまとめにして「前方系」と呼ばれるアプローチで、その名の通り股関節の前側の皮膚を切って手術を行う方法です。

 

これらの「前方系」人工股関節の手術の特徴は、筋肉や靭帯などを切離せず、筋肉の隙間を分けるようにして人工股関節を挿入していくということ。

 

手術時間は早い場合には片足約30分程度、手術時間が短くなれば、それに合わせ麻酔の使用時間も短いため、体にかかる負担を軽減できるというメリットもあります。また、筋肉や靭帯などの損傷も最小限に抑えられるため、術後の社会復帰もスムーズに進みやすくなります。

 

なにより、筋肉を温存することができるので、関節の安定性が高まることで、術後の脱臼リスクを大幅に軽減することができ、日常生活で制限される動きもほとんどありません。スポーツや野外活動など、たいてい患者さんの希望通りの生活を目指すことが可能です。

ますます体への負荷が軽くなる、「真のMIS」とは?

低侵襲手術に対するニーズが高まったことで、開発が進んだ前方系の股関節置換術。術後の脱臼リスクを軽減でき、社会復帰もスムーズということから、とても期待される手術法です。いったい、どのようにして手術が行われるのか、もう少し詳しくみてみます。

 

医師の技量差が「前方系」の壁に

股関節の前方や前外側からアプローチする「前方系」は、皮膚の切離が少なくてすむうえ、筋肉や腱を切らずに行えるという点で、真のMISといえるでしょう。しかしながら、現在、日本で行われる人工股関節置換術の約半分は、後方からのアプローチで行われています。

 

通常、手術を行う際には、関節の変形の度合いや合併症のリスクなどを考慮しながら、どこからアプローチするのが最適か決めますが、なぜ、現在でも後方からのアプローチが主流であるのかといえば、前方系のアプローチは手術の難易度が高く、医師の技量に左右されるためです。

 

筋肉と筋肉の隙間から人工股関節を設置するため、医師の技術や経験値が大きく成否を分けるのです。

 

神経障害のリスクも低減できる、前外側進入法

ちなみに当院では、ほぼすべての患者さんに前外側進入法で手術を行っています。なぜなら、前方進入法の場合、「外側大腿皮神経」という神経を痛めてしまう患者さんが約30%程度いるからです。

 

外側大腿皮神経とは、太腿の前や外側の筋肉に繋がっており、感覚を司る神経です。前方から進入すると、この神経がダメージを受けることがあり、術後に感覚の鈍麻や痺れなどが起きる場合があります。

 

しかし、前外側から進入すればそうしたリスクを避けることができます。

 

当院で手術を行う患者さんは、特別な理由がない限りこの術式で手術を行っていますが、その他の術式に比べて回復が早いように思います。早ければ、手術当日から立って歩くなどリハビリを開始することができ、スムーズな社会復帰を期待できます。

 

仰向け?横向き?…体位でも手術の精度が変わる

切開位置のほか、手術の精度を分ける要素に患者さんの体位があります。すなわち、仰向けで手術を行うか、横向けで行うか、という違いです。

 

たとえば、前外側アプローチには、仰向けに寝て行う方法と、横向きに寝て行う方法がありますが、一般に、仰向けで行うものを仰臥位前外側アプローチ(ALS THA)といいます。

 

私がクリニックで採用しているのも、この術式です。その理由は下記の通りです。

 

1.仰向けで寝て行うので骨盤の位置が安定し、人工股関節のカップを設置する際にズレが生じにくい

2.脚の長さを調整しやすい

 

まず1.についてですが、カップを安定して設置できれば、術後、脱臼のリスクを軽減することができます。

 

また、2.については、仰向けだと脚の長さの違いが一目瞭然になるので、手術中に脚の長さを調整しやすくなります。もともと、変形がある股関節は軟骨や骨がすり減っていることが多いために、もう片方の脚に比べて短いことが少なくありません。

 

脚の長さのズレは、腰痛や膝痛などの原因になるうえ、跛行の原因となり、歩行障害につながります。そのため、人工股関節置換術を行う際に脚の長さを正確に調整できるというのは、患者さんのQOLを向上させるために大きなメリットになります。

 

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※本記事は、オンライン診療対応クリニック/病院の検索サイト『イシャチョク』掲載の記事を転載したものです。