入学後でも厳しい「留年・放校」の実態
厚生労働省は、医師不足解消のため医学部定員を20%程度増加させる政策を打ち出しました。医学部生が増えることで、医学部全体の学力等の低下も懸念されています。医学部に入学し、6年間を留年しないでストレートで卒業できる方は7割前後です。
医師国家試験の合格率は、前述のように90%強ですが、医師国家試験の現役生の大学別合格率は77%から100%と相当な格差があります。合格率が一定数を保てない場合には補助金の支給が停止されるため、特に私立大学では死活問題となります。
自校の医師国家試験合格率を上昇させるために臨床実習が始まる5年生になるための進級試験と卒業試験を行い、優秀な生徒を選抜しています。結果として、この段階で留年や放校となる割合が高くなっているのです。
医師国家試験「不合格後」の生活
医師国家試験に不合格となると、医学部卒業としての学士は授与されますが、日本では医師としての勤務はできません。そのため次回の国家試験に向けて、大手予備校に通う方が大多数です。
以前の国家試験では、医学知識をそのまま丸暗記して過去問がそのまま出題されていましたが、近年の国家試験は傾向が変わってきています。
同じ疾患でも重症度や経過が違うため、正解が変わる、あるいは患者とその家族の心情やニーズを読み取って適切なアドバイスをするなどの「国語の心情」を問う問題など、コミュニケーション能力・優先順位をつける処理能力に加えて、医学知識を有機的に使用する応用問題が多く出題されるようになりました。
丸暗記やパターンのみで学習するなど、近年注目されている自閉症スペクトラム障害などの「発達障害」が示唆される受験生にとっては不利であり、成績に伸び悩む傾向があります。
前述の学力不足の例や発達障害の方は、高い予備校の授業料・教材の料金を家族が捻出し続けても合格をつかみとることができず、努力と家族の投資が水の泡となっていきます。
医師国家試験は、司法試験のように受験回数制限がありません。なかには5回や10回不合格となっても適正がないと自他ともに認めず、振り返りや自分の特性を見つめ直すことすらせずひたすら受験を繰り返している人もいます。精神疾患を発症し、受験できる認知機能や心理面のトラブルで医師への道を諦める方もいます。
家族が経営している医療機関の事務長や事務職となったケースもあります。
また、兄が不合格を繰り返している10年間、弟が先に合格してまっとうな医師としてのキャリアを積んでクリニックを開業し、そのクリニックに事務員として雇われたという事例もあります。
看護師や薬剤師など医療系の他職種でも国家試験はありますが、連続不合格の場合には、他職種への転向を考えます。資格がないため、収入がないという死活問題が直面してくるからです。
一般企業への就業はビジネススキルやマネーリテラシーがほぼない医学部卒業生にとって困難であるのが現実です。潰しがきかないため他の業種への転向ということがなかなか考えられない残酷な現実があります。
当然、収入や社会的地位もないので、婚活市場で人気とされる「医師」のスタートラインにも立てません。「医学部にさえ入れば大丈夫」ということではないのです。
武井 智昭
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