(※写真はイメージです/PIXTA)

性感染症は誰しもかかりうる病気です。梅毒が社会問題化している今、性病検査の重要性について改めて考えていきましょう。TwitterやYouTubeチャンネル「ぽいぽんch」で積極的に情報発信を行う剣木憲文医師(銀座ヒカリクリニック院長)が解説します。

近年、梅毒が社会問題化しているが…

近年、梅毒の流行が社会問題になっています。梅毒感染者数は2010年から2018年まで右肩上がりに増加し、その後19年、20年と若干の減少を見せましたが、2021年速報値では18年のピークを超え、7,873人と報告されています(図表1)。我々のクリニックにも連日多くの梅毒患者様がいらっしゃいます。

 

出所:国立感染症研究所データ
[図表1]梅毒感染報告数 全数調査 出所:国立感染症研究所データ

「現代人に多い性感染症」はこれだけある

梅毒以外にも現代人がよくかかる性感染症として、クラミジア、性器ヘルペス、淋病、尖圭コンジローマなどがあります(図表2)。

 

出所:厚生労働省HP
[図表2]性感染症報告数 定点調査(2020年) 出所:厚生労働省HP

 

「クラミジア」…世界で最も多い性感染症です。無症状も多く、のどや肛門への感染もとても多いです。

 

「性器ヘルペス」…発熱、痛みを伴う陰部潰瘍、リンパ節の腫れが特徴です。女性では排尿時に染みたり、歩行時にこすれて痛んだりする場合もあります。免疫が低下しているときに再発を繰り返すことがあります。

 

「淋病」…クラミジアの次に多い性感染症です。男性では尿道の激痛と膿の排泄が典型症状ですが、無症状のこともあります。のどへの感染率も非常に高いのが特徴です。

 

「尖圭コンジローマ」…性器にできるイボです。潜伏期間が3週間から8ヵ月間と長く、元恋人からうつされていることもあります。女性の場合はイボを自覚しづらく発見が遅れることがあります。

クラミジアより治りにくい「マイコプラズマ」も厄介

疫学データは乏しいのですが、現代人がよくかかる性感染症として、マイコプラズマという病原体があります。マイコプラズマ肺炎(ニューモニエ)という病気は聞いたことがあると思いますが、それとはまったく別で性感染症のマイコプラズマはジェニタリウムという種類です。当院で検査をされます患者様の罹患率は、男性尿:8.1%、膣分泌物:10.9%です(図表3)。

 

マイコプラズマのほうが治りにくいことがわかる。 出所:銀座ヒカリクリニック
[図表3]当院における1回治療後の治癒率 マイコプラズマのほうが治りにくいことがわかる。
出所:銀座ヒカリクリニック

 

男性では尿道炎、女性では細菌性膣症の原因となることがありますが、クラミジアと同様に無症状のことも多いです。また耐性菌の問題も深刻で、一度の治療では完治しづらくなってきています。図表3の通り、マイコプラズマ・ジェニタリウムとクラミジアの当院での1回治療後の治癒率はそれぞれ男性尿:91.6%、56.5%、膣分泌物:83.7%、64.1%であり、いずれもマイコプラズマのほうが治りにくいことがわかります。

「とりあえず検査」はとても大切

性感染症は、その名の通り、性交渉にまつわる感染症なので、性交渉をしていなければ発症することはありません。しかし、厳密には毛じらみ、疥癬(かいせん)、トリコモナスなどの寄生虫、原虫は性交渉をしていなくても裸の接触や公衆浴場などでも感染することが知られています。幸い、現代の日本では衛生状態が良いため、毛じらみや疥癬の患者数は減少していますが、いまだにトリコモナスの患者様は散見されます。女性ではおりものが増加し、魚の腐ったようなにおい(アミン臭)がするのが特徴です。

 

また性器ヘルペスや尖圭コンジローマなどのウイルス感染は厳密な挿入行為、粘膜接触がなくても、裸同士で触れ合うだけで皮膚から皮膚へ移る可能性のある性感染症です。性器ヘルペスは感染機会から2~9日で発熱、陰部潰瘍、排尿時の染みる痛みなどでご来院されます。尖圭コンジローマは感染機会から3週間~8ヵ月間で性器にイボができます。女性の場合、膣の入り口(膣前庭部)にできることが多く、触った感じも柔らかいことが多いので自分で気づけないことが多く、「とりあえず検査」にいらっしゃるときに偶然見つかることも少なくありません。

「とりあえず検査」するならこの3つ

最後に、私がおすすめする検査とその理由についてご説明します。

 

1つ目は「性器クラミジア」の検査で、これが最もおすすめです。理由は前述の通り患者数が一番多く、無症状も珍しくない上に、不妊の原因にもなるためです。

 

2つ目は「のどの淋病」です。理由は不明ですが、のどに関してのみ言えば、クラミジアより淋病のほうが多いという報告が多数あります。また、クラミジアであれば尿の場合ものどの場合も飲み薬で対応できますが、淋病においては尿や膣の淋病で治療効果のある飲み薬はのどには効かないことがあり、点滴治療がゴールドスタンダードです。

 

3つ目に「梅毒」の検査をおすすめいたします。もともと男性同性愛者の間で多くみられていた性感染症でしたが、近年では風俗で働く20歳代女性、風俗を利用する20~40歳代男性、そのパートナー女性などが多く感染しているのを拝見しています。自分や自分のパートナーに限っては大丈夫と高を括らず、「若くてセックスをしている」のならば、積極的に検査してほしい項目の一つです。

 

[図表4]おすすめの検査

余裕があればマイコプラズマの検査も受けてほしい

先ほどマイコプラズマ・ジェニタリウムは罹患率もそれなりに高く、治りにくい厄介な性感染症であると解説しましたが、「とりあえず」おすすめする検査には含めませんでした。その理由は、マイコプラズマは2012年から新しく検査が可能になった菌ですので、2022年現在保険収載がなされていないからです。クリニックによっても価格は変動しますが、自費で6,600円~17,600円程度とやや高額になるため、「とりあえず」ではなく、「余裕があれば」必要な検査であると私は思います。

 

従いまして、当院では尿道炎、細菌性膣症が治りにくい場合、妊活前、ブライダルチェックなどのときには積極的におすすめするようにしています。

郵送検査やオンライン診療もあるが、受診がおすすめ

性感染症のクリニックを受診すると性器の診察もしてもらうわけですから、前述のように、いわゆるできものチェックで性感染症が見つかることもあります。そこで偶然発見するものというのは尖圭コンジローマ、水いぼ、性器ヘルペス、梅毒などです。これは郵送検査やオンライン診療では実現できない、対面診療ならではの『特典』と考えています。

 

さぁ、若い時間を忙しくご活躍されている皆さん、検査をしてみたい気持ちになりましたでしょうか。性感染症の検査をしたことのある方、ない方、一人でも多くの方に、性感染症の検査をしたいと思っていただけましたら幸いです。

 

 

剣木 憲文

ぽいぽんchこと、性感染症内科医ノリ

銀座ヒカリクリニック 院長

※本記事は、オンライン診療対応クリニック/病院の検索サイト『イシャチョク』掲載の記事を転載したものです。