正確な治療に必要な「歯肉圧排(しにくあっぱい)」
このような治療方法の変革は、コンピュータ上で設計された歯の形を正確に削り出すCAD/CAM(キャドキャム)という装置のおかげです。
さらに最近ではIOSと呼ばれるスキャナー(3Dカメラ)を使い口の中で歯の形を直接計測する方法が普及しはじめ、従来の粘土のような物を口の中で固める工程が不要になりました。
動画1はその画面ですが、バーチャル空間に歯の情報が現れるわけですから、けっこう不思議な感じがします。
【動画1】スキャン画面のビデオ(※閲覧サイトによっては表示されない場合があります。)
まだまだ高価な機械ですが、今後健康保険でも使える時代が来ることでしょう。
ただしこのIOSにも欠点はあります。最も問題なのが「歯肉の中」の計測が苦手ということです。自分の歯と人工歯の境目(マージンと言います)が歯肉の中にあるとスキャナーの光が届かず情報が欠落する、つまり長さの足りない人工歯ができてしまうのです。しかもそれがPC画面上では確認しづらいのです。
これは従来からの粘土のような型取り剤でも同じなのですが、IOSではさらに難しくなります。そのため型取りの前には歯肉圧排(しにくあっぱい)と言って、細い糸を歯肉の中に挿入することで歯肉と歯の間にわずかな隙間を作り、マージンがよく見える状態を作り出す工程が不可欠になります。具体的には動画2のようになります。
【動画2】歯肉圧排(※閲覧サイトによっては表示されない場合があります。)
IOSでの場合は糸だけでは不十分なことも多く、レーザーで歯肉整形するなど、さらに特殊な技術が必要になります。
歯肉圧排はそこそこ時間がかかる工程で、歯肉に炎症があると出血してさらに型取りが難しくなるので、特に健康保険では省略される傾向が強いのですが、正確な人工歯を作るためには不可欠なので、良い治療の必須条件として患者さんには覚えておいてもらいたいことです。
歯肉圧排は型取り前に歯肉を触りちょっとチクチクしますので、麻酔をしていなければ、ご自身でもすぐにおわかりになると思います。
また歯肉圧排以外にも、ムシ歯の取り残しがない・削り過ぎにならないなど、丁寧な治療を心がけることが良好な予後のポイントになります。
できれば顕微鏡を使って治療をしてもらい、治療中のビデオを見せてもらえれば安心でしょう。
要は「何を使うか」ではなく「どう使うか」です。