「大人の当たり前」は「子どもの当たり前」と限らない
子どもは思わぬところでつまずいたりする。大人からすると、「なんでこんなこともわからないの?」と感情的になってしまうことがある。中には「うちの子は大丈夫だろうか」と親であれば不安に思うこともあるだろう。
実は、大人にとって当たり前のことでも、子どもにとっては当たり前のことではない。子どもは純粋に「わからない」と言って興味を示そうとしているのにもかかわらず、大人は当たり前のことを聞かれると具体的な説明を省き、「当たり前のことを聞かないで」「こうなんだからこうだ」などと簡単に済ませてしまう傾向にある。結果として、子どもは聞くことをやめ、興味を失っていくのだ。
大人と同じところで物事を考えてはいけない。そこで、今回つまずいてしまう理由からどうやって教えるべきかを例を挙げながら紹介したいと思う。
つまずく理由①イメージの欠如
小学校2年生になると掛け算の勉強が始まる。早い子は掛け算の勉強が始まる前に、お風呂などに掛け算表を貼り、何度も音読して覚える子も少なくない。学校でも九九の掛け算を反復させ音読することで覚えさせる。
しかし、九九は言えても文章題になった途端にできなくなる子は多い。
では、なぜできなくなってしまうのか。それは、掛け算のイメージ欠如しているからである。機械的に覚えていくため、掛け算がどういう仕組みなのかを理解していない。すぐに計算方法を教えたりするとこのような弊害が出てくる。たとえ仕組みを理解しても、「×0」と言われたらさらに厄介な問題である。
たとえば、「1×3」であれば「1が3個ある」ということで納得できる。「1×0は?」と聞かれたら、「1が0個ある」となり、「0個あるってどういうこと?」と混乱するのも無理はない。大人でも「ん?」と思ってしまう方はいるのではないだろうか。0は何もないことを表す数字だ。正直、0の認識は難しいので、答えられない子どもがいるのはごく自然なことなのである。
つまずく理由②「0」の概念が理解できていない
大人にとっては当たり前でも子どもにとっては疑問に感じる問題の例として「1×0=0」が挙げられるだろう。大人にとっては「0になる。そういうものだ」で済むかもしれないが、このような問題を理解できない子どもも多い。
なぜなのだろうか? 理由の一つとして、「0」が持つ「ない」という概念を理解できていないことが考えられる。実際にあった出来事を証明するより、実際にはなかったことを証明するほうが難しいように、「ない」ことを理解するほうが「1」、「2」のように「ある」ことを理解するより難しいのである。
たとえば、子どもに1以上の数字を教えるときは実際に鉛筆などのものを用いて、1つある状態を「1」、もう1個増えたら「2」などと数字と実際のイメージを伝えることが容易である。しかし、「0」は机の上に何もない状態であるということを理解させなければならない。このように、「0」の「ない」という概念は大人が教えることも、子どもが理解することも難しいのである。
また、「0」が「ない」という性質ゆえに他の数字と異なり、掛け算において「0」をかけると答えがすべて「0」になることも理解を難しくしている。「0」をかけることで、「1」、「2」など「ある」ものが「ない」状態になることを理解することは困難であるだろう。なぜなら、日常生活において手品でもない限り目の前にあったものが突然なくなることは起こり得ないためだ。
このことは「1÷0は計算できない」、つまり0で数字を割ることはできないことを理解する際にも問題になる。これも0の「ない」という性質が故であるが、他の数字では割り算をして良いのに、なぜ0では割ってはいけないのか、これを理解することは難しい。
先ほどの鉛筆の例を用いると、この問題は机の上にある鉛筆を0人に分けることはできないことを理解する必要があるからだ。これまで述べたように、子どもは目に見えない状態を理解することは難しい。そのため、0が関わる問題は計算のイメージがつかみにくく、子どもにとって理解が難しいのであろう。
子どもに「1×0=0」の仕組みを理解してもらうには?
では、どのように教えたら子どもは理解することができるのだろうか。ここで大事なことは、イメージである。数字を使った抽象的な説明ではなく、絵やブロックなどを使い実際に見てイメージしていくことで理解力が増してくる。
まず、机の上に空の容器やコップなどを何個か用意する。この空の状態が「0」である。1つの容器に満杯まで液体を入れた状態が「1」、2つの容器が満杯の状態だと「2」といった具合である。また、液体の量を調節すれば分数や少数を表すこともできるので、1つの容器だけが満杯で残りは空の状態が「1.0」、そこから2つ目の容器に液体を入れていくと「1.1」、「1.2」、「1.3」...と増えていく。これで「0」が「ない」という状態であることを実際に見ることができる。
次に、実際の計算を理解する例題を上げる。
「1箱2つ入りのチョコレートがある。Aくんは2箱、Bくんは1箱取った。Cくんはチョコレートが嫌いなので取らなかった。3人はそれぞれチョコレートを何個ずつ食べられますか?」
この問題では、Aくんは2×2=4で4個、Bくんは2×1=2で2個、Cくんは2×0=0で0個。Cくんはチョコレートの箱を取っていないので持っているチョコレートは0個なのである。この問題を実際に家にある物を使って実践してみれば、何も取らなかったCくんの持つチョコレートは0個であると実際に体験して理解できる。
ちなみに0×1、0×2などの「0×□=0」を説明するには、先ほど紹介した容器の例を用いる。空の容器をいくら用意しても液体は「ない」、つまり「0」のままであると説明できる。
まとめ:算数好きになるか算数嫌いになるかは大人次第
このようにしっかり教えようとすると大変手間のかかる指導が必要となる。しかし、幼児期から低学年の時期がとても大事で、この手間を惜しんではいけない。算数好きになるか、算数嫌いになるかにかかっているのだ。
また、子どもたちに指導をする際、大人感覚で指導してはいけない。答えがあっていればいいのではなく、その答えを導き出すための考え方・過程(イメージ)が大事だということを心に留めておいて欲しい。
冨沢 拓夫
ブライトフューチャーアカデミー 代表
埼玉県立大学・神奈川大学 非常勤講師