インプラントの「特殊性」を理解してほしい
■インプラントの「最大の利点、最大の欠点」
インプラントの最大の利点は、欠損した歯を人工物で補うにあたり、残っている他の歯に一切負担をかけないところにあります。
入れ歯やブリッジは、どうしても残っている歯に過大な力を負担してもらわなくてはなりません。それが引き金になり、破損し10年ごとに治療し直し…という負のスパイラルに陥る可能性がとても高いのです。
一方、よく言われるインプラント最大の欠点は、手術を伴うことです。ドリルで骨に穴を開けていくわけですから、怖いイメージは拭いきれません。
しかし見方を変えれば、もともと骨には歯が入っていた穴が空いていたわけですから、それを元に戻すようなものです。昔の自分に近づけると考えれば前向きになれるものです。
実はインプラント最大の欠点は別にあります。それは、インプラントは「自然の歯」ではないということです。当たり前ですが、人工物であるインプラントはもとからあった自分の歯とは成り立ちも立場も違います。
立場とは何でしょう。両者とも骨に囲まれているのは同じですが、歯と骨の間には歯根膜(しこんまく)というクッションが一枚あり、そこには神経も血管も走っています。つまり噛む圧力を感知するセンサーがあり、酸素や栄養が供給されている、当然、白血球も流れてきて感染防御の最前線を担います。
一方インプラント周囲に歯根膜はなく、骨と直接くっついているだけですので、酸素や栄養は歯肉側からだけの供給となります。そのため自分の歯に比べて感染には弱いという宿命を背負っています。
この仕組みを知っていることは、後で説明するインプラント周囲炎を予防するうえで大切です。
■「インプラント本体の位置」だけは後で変えられない
インプラントを利用している患者さんを長年診続けていると、インプラント本体の上に装着する人工歯の形が良くなく、その結果歯ブラシが届かない範囲が増え、トラブルに発展するケースをよく目にします。
良い形で歯磨きしやすい人工歯が作れれば良いのですが、骨や歯肉の形態が理想的なことは少ないので、それにつれ人工歯の形は多少なりとも歪にならざるを得ません。歪であれば、それだけ歯磨きが難しくなるということです。
しかしそこは歯科医師の腕の見せどころ。手術で骨や歯肉をできるだけ自然な形に近くなるように復元したり、人工歯の形を工夫し少しでも使い心地の良いものを作ろうとしたりします。
そのためにも手術後はいったん仮の歯を入れて、お試し期間を設けることをおすすめしています。仮の歯は簡単に盛ったり削ったりできるので、良い噛み合わせや磨きやすい歯の形を試行錯誤することができます。そして仮の歯で問題ないことを確認してから、最終的に強度のある人工歯に交換するという行程を踏みます。
このとき重要なのは、インプラント本体が理想的な位置に入れられているということです。前すぎても、後ろすぎても、傾いていてもいけません。
インプラント本体の位置が悪ければ、そこから立ち上がる人工歯はトリッキーで磨きにくい形にならざるを得ません。ですから最初の治療計画通りに正確にインプラントを入れる技術がとても重要になります。
そのために必要なのが、ガイドプレート(写真1)です。マウスピースにドリルがピッタリ入るチューブがついており、手術時にドリルがずれて入ることのないように制御する働きをします。
作成方法は二つあり、石膏模型上で作るアナログと、CT画面上で設計するデジタルです。正確な位置付けをするにはデジタルが必要になりますが、アナログでも十分な精度が出せる場合もたくさんあります。
また最近はCT画面上にドリルの現在位置を重ねて表示するナビゲーションシステム(写真2)も普及しはじめ、ガイドプレートがなくても正確にインプラントを入れられる時代になっています。
インプラント本体の位置だけは手術後は変えられないので、これから手術を受けようとする方はどのような方法でインプラントを入れるのかも確認しておいたほうが良いと思います。